オーストリアの首都・ウィーンは音楽の都として知られていますが、それ以外にも建築、美術、カフェ、スイーツなど様々な魅力に溢れています。今回は、ウィーン商工会議所による「ウィーンプロダクツ」の称号を与えられた企業が手掛ける、伝統に培われた銀器や磁器、リネンなどのテーブルウェアと、市内にある素晴らしいワイナリーを、5回にわたって紹介していきます。
土地の個性を感じるウィーンワイン
ウィーン紀行の4回目は、ウィーンの自然と匠の技によって生み出される素晴らしい贈り物、ワインについて紹介します。オーストリアでは紀元前700年頃にケルト人によってワイン造りが始められたとされます。中世には修道院で醸造が行なわれ、1860年に世界初のワイン栽培・醸造学校が設立されたそうです。現在も各地でワイン製造が行なわれていますが、中でもウィーンは、世界中の大都市において唯一、約700haという広大なブドウ畑があり、大量のワイン造りが行なわれているという稀有な街です。
現在、ウィーンにはおよそ190のワイナリーがあり、中世後期まではブドウ畑が今の旧市街あたりまで広がっていたといいます。ウィーンのワイン産地は、ドナウ川とウィーンの森によって大きく3つに分かれます。ドナウ川南側のヌスベルク地区、北側のビーサムベルク地区、ウィーン南部のマウラーベルク地区。そして、白ワインが80%、赤ワインが20%の割合で生産されています。
市街を見下ろす丘陵にあるウィーン・ヌスベルク地区のワイン畑。
葡萄の品種は、白ワインではグリューナー・ヴェルトリーナーやミュラー・トゥルガウ、ヴァイスブルグンダーなど、赤ワインではツヴァイゲルトやピノ・ノワールなど。日本ではちょっと馴染みの薄い品種ばかりです。
さらに、その製法も独特です。白ワインは「ゲミシュター・サッツ」という混植混醸ワインが多く造られています。これは、異なる品種の葡萄をひとつの畑に植え、それらをすべて混ぜた状態で醸造するという、ウィーン独自のスタイルです。
もともとは、品種の異なる葡萄を栽培することで、病気で葡萄が全滅することを防ぐと同時に、葡萄の収穫量を確保することを目的に行なわれてきました。しかし、近年はこの醸造方法こそが、ウィーンワインの個性を表現できる手法であると注目されています。2011年から導入された規定により、単一の畑に少なくとも3種類の葡萄を植え、ひとつの品種の割合は最高50%まで、3つ目の品種は少なくとも10%を占めるようにと決められました。ゆえに、10種類ほどの葡萄を同時に収穫し、混醸するワインもあるのです。
溌剌(はつらつ)とした柑橘系の香りの辛口のワインや、スパイシーで複雑な香りのエレガントなワインなど、繊細な土地のミネラル感を存分に感じることができる個性的なワインが生み出され、いずれも日本人好みの味が多いと感じます。
自然派ワインと市有ワイナリー
オーストリアは自然派ワインの先進国として知られています。自然派ワインには有機農用に取り組むところ、保存料である亜硫酸塩の使用を抑えるところなどがありますが、さらに一歩進んだ「ビオディナミ」を2006年から実践するのが、ウィーン・ヌスベルク地区にあるワイナリー「ウィーニンガー」です。現当主のフリッツ・ウィーニンガーさんはゲミシュター・サッツの第一人者といわれています。
ビオディナミは化学的、人工的なものを排除し、自然の力を最大限に引き出すことに重きを置いています。天文学に基づくブドウの耕作や剪定、牛の角に詰めた牛糞で土壌の微生物を活発にするなど、完璧な畑づくりを目指しています。
畑には雑草や花が茂り、ブドウはとても健康的。またワイナリー内には元修道院にあった古いワインセラーもあります。このワイナリーで生み出されるワインは、日本の愛好家も多いといいます。
ワイナリー「ウィーニンガー」のワインセラー。もともと修道院だった。
同じくウィーン・ヌスベルク地区にある「コベンツル」はウィーンの市有ワイナリーです。18世紀には当時の土地所有者で音楽愛好家だったコベンツル伯爵が豪華な城を建て、モーツアルトを何度も招き、モーツアルトはここでオペラ『魔笛』などの傑作を手掛けたといいます。
丘の上から望むウィーン市街の景観は今も同じで、モーツアルトに素晴らしい創造力を与えたことはいうまでもありません。ワイナリーは城内にあった農場の建物を利用し、ブドウ畑は60haにのぼり、国内外のコンクールで受賞歴を持つワインを輩出しています。ワインショップやワイナリーのガイドツアーのほか、試飲室を改良した部屋では結婚式も行なわれています。
取材協力/オーストリア大使館商務部
http://www.advantageaustria.org/jp/
ワイナリー・ウィーニンガー
http://www.wieninger.at/de/
ワイナリー・コベンツル
http://www.weingutcobenzl.at/de