もうすぐお正月です。正月の食卓に雑煮は欠かせませんが、出汁や具、餅の形には地域性が見られます。東京の雑煮は鰹出汁で、小松菜や鶏肉を具に用い、焼いた角餅を入れたすまし仕立てが伝統的です。京都は昆布を主体にした出汁に白味噌を溶き、具は京野菜、ゆでた丸餅を入れて食します。また、同じ地域でも家庭ごとに調理や味付けは異なり、幼いときから慣れ親しんだ味には、家族の思い出がつまっています。
それは歴史上の人物や文豪と呼ばれる作家も同じこと。今回の特集では吉田松陰、竹鶴政孝、夏目漱石、谷崎潤一郎、池波正太郎の5人が食した雑煮を文献や取材をもとに再現しました。
それぞれのひと椀に、生き方や家族との思い出が垣間見えて興味深いのですが、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝が食したのは鰤雑煮でした。政孝はNHK連続テレビ小説『マッサン』のモデルといわれ、数々の困難を乗り越えて国産ウイスキー作りに邁進する姿はテレビドラマでお馴染みです。生地の広島県竹原では、縁起を担いで雑煮に出世魚の鰤を入れる習わしがありました。政孝が蒸留所を作った北海道の余市では、当時、鰤は手に入らなかったといいます。それでも遠い故郷から取り寄せてまで食した鰤雑煮には、国産ウイスキーを何としても成功させたい政孝の信念が込められているようです。
ほかにも、吉田松陰が獄中で家族を思って食べたという蕪雑煮や夏目漱石が最後の正月に食した松茸雑煮などをご紹介しています。作り方も掲載していますので、今度の正月に作ってみるのも一興です(写真は竹鶴政孝が食した、故郷・広島の鰤雑煮。撮影/高橋昌嗣)