大坂の陣で活躍した戦国武将
大坂の陣で活躍した戦国武将といえば、真っ先に思い浮かぶのは真田幸村(信繁(のぶしげ))。昨今の若者たちに最も人気が高い武将という。少ない軍勢で徳川本陣に迫る勇猛さ、優れた知略は敵将からも「日本一の兵(つわもの)」と賞賛された英雄だ。さらに幸村の人物像や伝説をより深めているのが、関ヶ原の合戦以降、兄・信之(信幸)と敵味方に別れ戦った事だろう。
時代物には、冬の陣を題材にした『近江源氏先陣館(おうみげんじせんじんやかた)』、夏の陣を舞台にした『鎌倉三代記』がある。芝居では、幸村は鎌倉時代の武将、佐々木高綱(ささきたかつな)の名で登場。信之も高綱の兄・盛綱(もりつな)に置き換えられている。『近江源氏』は、兄弟同士で争う苦衷(くちゅう)が主題だ。
兄・盛綱は人質として高綱の子・小四郎を預かるが、甥小四郎への愛情ゆえ高綱が降参などしては不忠になると、小四郎に切腹をさせようとする。小四郎は拒んで逃げるが、父・高綱が討死し盛綱が首実検のため首桶(くびおけ)を明けるや、小四郎は「父様さぞ口惜しかろ」と腹に刀を突き立てる。実は、首は高綱の影武者の贋首(にせくび)。小四郎は敵方にそれを気取られまいため自害したのだった。
『鎌倉三代記』では、高綱が百姓藤三郎に化けて北条時政(徳川家康)に近づき命を狙って英雄らしい豪快さを見せる。井戸から現れたり、隠れたりする演出は、伝説の「真田の抜け穴」を彷彿(ほうふつ)とさせるものだ。人々が心寄せる悲劇の英雄が甦って勇姿を見せる舞台に江戸の人々は喝采を送ったに違いない。
文/岡田彩佑実
『サライ』で「歌舞伎」、「文楽」、「能・狂言」など伝統芸能を担当。