紅茶なのに「ブラック」とはこれいかに
ブラックティーという言葉を聞いたことがあるだろうか。直木賞作家・山本文緒さんの『ブラック・ティー』という小説もよく知られている。すなわち、ミルクやレモンを加えず、ストレートでいただく紅茶のことである。紅茶なのに「ブラック」とはこれいかに……と、違和感がありながらも、深く追究することはなかった。
しかしながら最近、ストレートの紅茶がブラックティーと呼ばれる理由を知る機会があった。紅茶の消費量の多いイギリスでは、硬質の水で紅茶を淹(い)れるのだという。
特にロンドンの中心部は硬度が高く、カルシウムやマグネシウムを多く含む。このような水質の水で淹れるとコーヒーのように黒い色になり、それでいて、渋味が少ないのだと聞いて納得。同じ紅茶を日本の軟水で淹れると、紅茶という呼び名にふさわしいオレンジ色の水色(すいしょく)になるのだ。
そのような茶葉のおいしさを引き出すために、茶葉のグレードよりも大切なのが、淹れ方。それは、米の炊飯とも似ている。以前、取材で米の専門家から聞いた印象的な談話を思い出した。「どんなに高級な魚沼産コシヒカリであっても、炊飯器の炊き上がり音が鳴った後にそのまま置いておいたら、安い米と変わらない味になってしまいます。炊けたらすぐに、底から返すこと。それでこそ、米のおいしさが発揮されるのです」。
紅茶の場合、大切なのは水
紅茶の場合、大切なのは水だ。水道から汲んだ酸素をたっぷり含んだ水を沸かし、沸騰直前に火を止める。ポットに入れると、水が含んだ酸素が茶葉の表面に付く。
底に沈んだ茶葉は持ち上げられ「ジャンピング」という対流を起こす。これにより、茶葉の味わいをおいしく抽出できるのだ。
ミネラルウォーターを使う場合は、ボトルを上下に振って空気を含ませるといい。小さなひと手間で、これまでよりおいしい紅茶が味わえるに違いない。
写真・文/大沼聡子