取材・文/坂口鈴香

写真はイメージです。

「余命わずか」と言いふらす母

前回、「『いつも母がお世話になっています』と言わせられるのが嫌でたまらない…」(https://serai.jp/living/1250667)で、親に言われて嫌な言葉について考えた。

母親が退院してホームに戻るとき、職員に「このたびはお世話になりました」と言うように指示されてムカついたと言う金沢美和子さん(仮名・68)から、連絡をもらった。

「娘とも話したんですが、母が私にお礼を言わせたがるのは『自分の娘への教育は間違っていなかった』と周囲にアピールしたいからではないか、と。確かに、それはわかる気がします」

それでも、我の強い母親の言動には、入退院を繰り返すようになった今も振り回されていると嘆く。

「実は母が入院したのは、がんが見つかったからなんです。高齢だから手術はせず、ホームに戻ったのですが……」

その際母親は、不可解な発言をしたという。

ホームの職員や友達に「私はあと半年の命だとお医者さんに告げられた」と公言して回っているというのだ。

「私は担当医からそんなことを聞いていないし、私にではなく母だけに担当医がそんなことを言うとは思えません。認知症もないのに、なぜ母がそんなことを言うのか本当に不思議でなりません。大変ね、と気遣われたいのでしょうか」

母親には「私はそんなことは聞いていない。お母さんが聞き間違いしているんじゃないの?」と伝えたが、母親は「余命半年」と言い張っているという。

その一方で、病気のせいか母親の食欲が落ち、口数も若干減っていることに、どこかでホッとしているのも正直なところだ。

「心配より安堵している私も冷たい娘だとは思いますが、次々といろんな要求をしてくる母には正直うんざりしていたので、それが少し減ったことでずいぶん気持ちが楽になりました」

母親は、余命がわずかしかないと伝えた効果か、職員が優しい言葉をかけてくれていることに満足しているという。ところが、同年代の入居者はそうでもないようだ。

「ホームの友達が、母に『痩せたわね』『元気がないわよ』などと言うらしいんです。母のことを心配しているようでいて、あまりにストレートでデリカシーのない言い方に呆れました」

母親は96歳、ホームの友達も皆90歳前後だ。ここまでくると自分のことで精いっぱいだから、相手の気持ちを慮ることもなければ、オブラートに包んだ言い方もしないのか。思ったことをズケズケ言うし、言われて大きく傷つくこともない。

「感情も老化してくるのかもしれませんね。ある意味羨ましい境地というか」。

だから自分も、母親の言うことにいちいち腹を立てることはやめて、言いたいことは言おうと思っている。

親が元気なうちから医師の説明を聞いておこう

また前回では、母親が病院を受診する際、「診察室に入って、医師に『お世話になっています』と挨拶してほしい」と言われるのが嫌でたまらないという桐生亜希子さん(仮名・52)の言葉を紹介した。

久保陽子さん(仮名・60)は、診察室への同行に肯定的だ。義母が受診する際は、一緒に診察室に入って担当医の話を聞くのが常だ。義母はしっかりした人で、認知症もなかったが、それが当然だと思っているという。

「担当医や看護師さんも、義母よりも若い私に説明をしたいという感じを受けます。ボケてはいなくても、年齢や病気のせいで理解力は衰えているので、それも当然だろうと思います」

久保さんの言葉に賛同するのは、ケアマネジャーの落合育代さん(仮名・58)だ。

「お母さんがちゃんと医師の言うことを理解しているか、家族は同席して確認してほしいと思います。『まだ頭も明晰だから、そこまでしなくてもいい』と思う人もいるかもしれませんが、今はそうでもいずれ親の状態を把握しておくことが必要になるのですから」

親が衰えてからいきなり同席しても、それまでの経緯がわからないと医師も家族も困ることになる。だから元気なうちから親と一緒に医師の話を聞くのは良いことだと断言する。

「むしろ、耳が遠かったり、物忘れがあったりする方が、かたくなに家族の同席を拒むほうが困ります」

久保さんも、「義母はそのときは『はいはい』と医師の説明を理解しているように見えますが、義母の思い込みが入っているので、あとで確認すると間違っていたり、医師の指示を自分の都合のいいように変えていたりすることも少なくありません。だから診察時に同席して、ちゃんと確認すると、医師や看護師も細かく説明してくれるので、こちらも安心できます」

「医師は家族と話したがっている」と落合さんは指摘する。「熱心な医師ほどそうです。そのほうが解決が早いから。親に認知症がなくても、病気や身体の知識ベースは若い人にはかなわないです」

だから、「診察室に入って挨拶してほしい」と親に言われて、ムカついている場合ではないのだ。これからの自分のためにもなる。情報収集のつもりで積極的に同席しよう。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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