室町時代の豆腐田楽にルーツを持ち江戸時代にはファストフードとして庶民に親しまれてきた「おでん」。今も昔も暖簾をくぐると“だし”の香がふわり漂う──そんな酒場で気取らぬ一杯を。
アゴとアジが香り立つ、澄んだ旨さの黄金の“だし”

仙台一の歓楽街、人で賑わう国分町界隈におでんの提灯が揺れる。夕暮れになると開店を待つ客がちらほら。提灯に明かりがともり開店、それから10分もたたないうちに1階はほぼ満席になる。
当地きっての人気酒場『おでん三吉』を訪ねた。初代の田村三郎さんが昭和24年(1949)におでんの屋台から始め、3年後に現在地に店を構え、2代目・忠継さん、3代目・浩章さん(55歳)が繁盛店へ導いてきた。
おでんのだしは薄い黄金色、東北にあって関西風のおでんである。
浩章さんはこう語る。
「だしの主体はアゴ(トビウオ)とアジ、それに昆布です。塩と酒で味を調えて醬油は使っていません。素材の味を活かすために薄味にしています」
匙(さじ)にすくうとだしはほぼ無色、見た目は頼りない印象だが口に含むとじわじわと旨みが増してくる。
だしに関しては“事件”があった。初代から引き継ぎイワシの焼き干しでだしを取っていたが、人手不足とイワシの不漁などもあり突然、製造元から生産中止を宣告された。それが2年前のこと。
「目の前が真っ暗になりました。でも“三吉のおでん”を続けなければいけない。もうなんというか…………試行錯誤しましたよ。やっとたどり着いたのが現在の形です」
アゴとアジの割合は7:3、アゴの旨みにアジのアクセントがつき深みが増す。おでんの根幹をなすだしの大変革があったが、客は変わらず『三吉』に通い続ける。
だしの材料が変わっても、素材を活かす店の味は見事に継承された。

一見でも気楽に入れる
5時間近く煮込まれた大根は、色は薄いが味が芯まで染み込んでいる。初代が考案した名物の「にら玉」は、茶碗蒸しのおでん版といったところ。ほくほくのサンマのすり身を箸で崩してだしとともにいただくと、ただただ旨い。東北の銘酒も揃い、地元の食材を使ったおつまみも人気だ。
一見(いちげん)の客にも主人は気さくに話しかけてくれる。左党に知られる名酒場では、常連も一見も仲よく盃を傾けている。




おでん三吉

宮城県仙台市青葉区一番町4-10-8
電話:022・222・3830
営業時間:18時〜23時
定休日:日曜、祝日
交通:仙台市営地下鉄南北線勾当台公園駅よりすぐ
取材・文/宇野正樹 撮影/泉 健太

特別付録『2026年「サライ」オリジナル「ゴッホ・カレンダー」』











