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日本酒を選ぶとき、最初に目に入るのがラベルです。美しい書体、色とりどりのデザイン、そして様々な情報が詰め込まれたラベルは、まさに日本酒の顔といえるでしょう。今回はラベルの魅力と楽しみ方についてご紹介します。
文/山内祐治
目次
日本酒ラベルデザインの基本と役割
おしゃれな日本酒ラベルの新潮流
日本酒ラベルの剥がし方とコツ
日本酒ラベルのコレクション方法と保存術
まとめ
日本酒ラベルデザインの基本と役割
日本酒のラベルには、法令や業界ルールで定められた表記しなければならない必須項目と、表記してもしなくてもよい任意項目、表記が禁止されている表現があります。お酒の名前や「清酒」という表示、原材料(米と米麹、醸造アルコールなど)、製造者や製造場の情報は必ず記載しなければなりません。一方で「うちのお酒が一番です」といった優良誤認を招く表現や「宮内庁御用達」「官公庁御用達」などの権威づけ表現は公正競争規約上で禁止されています。
こうした規則がありながらも、デザイン面では酒蔵それぞれの創意工夫が光ります。従来は筆文字や和の絵柄を使った伝統的なものが主流でしたが、最近では若い世代向けのモダンでスタイリッシュなデザインが急増しています。アート的なニュアンスのもの、昭和感を演出したレトロラベルなども人気で、酒蔵の意図や個性が色濃く反映されているのです。
おしゃれな日本酒ラベルの新潮流
おしゃれなラベルデザインの注目すべき事例として、桝田酒造店の「満寿泉 Pero」が挙げられます。地元の作家や画家とコラボレーションして制作されたラベルは、早い段階から注目を集めていました。現在では多くの酒蔵がアーティストや書家、デザイナーと組んで、目を引く魅力的なラベルを生み出しています。
さらに注目すべきは「栄光冨士」で、1年を通じて約30アイテムものラベルデザインを展開しており、そのラベルは店頭で目を引く現代アート調の印象で一見の価値があります。また、黒龍酒造の「九頭龍 大吟醸」のように、ベルベットタッチの厚みのあるラベルで高級感を演出していたり、その逆で昔ながらに新聞紙で瓶を包んで提供する「長珍」や「義侠」などの銘柄もあります。そこにはラベルの枠を超えたパッケージ表現があり、日本酒の新たな魅力を創出しています。
日本酒ラベルの剥がし方とコツ
美しいラベルをコレクションしたい方のために、上手な剥がし方をご紹介します。最も簡単な方法は、ぬるま湯に10~15分つける方法です。本格的にコレクションしている方の中には、浴槽にお湯を張って複数の瓶を一度に処理する方々もいるそうです。
その他の方法として、中性洗剤を使う方法、ドライヤーの温風を当てる方法、市販のシール剥がし剤を使用する方法があります。シール剥がし剤を使う場合は、スクレーパーも併用すると効果的ですが、紙を傷めないよう金属製ではなく樹脂製のものを選ぶことをおすすめします。
剥がしたラベルは、すぐに平らな場所で乾燥させ、しわにならないように注意しましょう。丁寧に作業することで、美しい状態でコレクションに加えることができます。
日本酒ラベルのコレクション方法と保存術
ラベルコレクションの基本は、写真アルバムでの保存です。手軽に始めたい方は、クリアファイルやリーフレット形式での保管も良いでしょう。長期保存を考える場合は、アシッドフリー(酸を含まない)のアルバムを使用すると、ラベルの劣化を防げます。
より創意工夫を凝らした方法として、バインダーに綴じる、フレームに入れて飾る、大きな額縁に様々なラベルをコラージュする方法があります。これらは「自分だけの日本酒図鑑」として、訪れた土地や思い出と共に記録できる魅力的な方法です。
もっと手軽に楽しむならば、スマートフォンで撮影してクラウドに保存する方法もあります。後から探しやすいようにタグをつけて検索できるようにしておけば、とっさに思い返すときに便利。酒販店で好みを伝える際にも役立ちます。

まとめ
日本酒のラベルは、単なる商品情報以上の価値を持っています。酒蔵の哲学やこだわり、そして日本の美意識が込められた“芸術作品”といえるでしょう。酵母や酒米、製造方法といった専門的な知識がなくても、ラベルデザインから入ることで日本酒の世界を気軽に楽しめます。
最近では、ラベルが味わいを想起させるデザインや、飲み方を提案するようなラベルも増えており、視覚的な楽しみが広がっています。「ジャケ買い」から始まった一本が、新たな日本酒体験の扉を開くかもしれません。
ラベルコレクションを通じて記録を残し、それを酒販店で見せながら好みを伝えることで、さらに自分に合った日本酒との出合いが生まれるでしょう。伝統と革新が共存する日本酒ラベルの世界を、ぜひ気軽に楽しんでみてください。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。
構成/土田貴史











