目が笑っていない風間俊介さん演じる鶴屋さん。(C)NHK

ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)の「本屋パート」で、蔦重(演・横浜流星)の耕書堂の前に立ちはだかっているのが、風間俊介さん演じる鶴屋喜右衛門です。鶴屋は劇中で、恋川春町(演・岡山天音)を嫉妬させた北尾政演の『御存商売物』などの板元で、この時期の出版界を蔦重耕書堂と鎬を削っていました。

A:風間さんといえば、1999年の『3年B組金八先生 第5シリーズ』で、兼末健次郎という役を演じて、国民的な知名度を得ました。親や教師などの大人の前では模範的な優等生であるにもかかわらず、同級生を支配して、陰湿ないじめなどをする裏の顔を持つ中学生を演じました。優等生の顔から裏の顔に瞬時に変化する表情などが秀逸で、シリーズ歴代最高の生徒の名をほしいままにしました。今でもCSチャンネルで高頻度に再放送されていますが、ついつい見てしまうくらいインパクトがありました。当欄の連載は『麒麟がくる』からスタートしていますが、風間さんは同作で徳川家康を演じています。

I:私は、どちらかというと、朝ドラの『純と愛』ですかね。最近のバラエティーに出演されている時のような、温厚で爽やかなイメージも強いです。徳川家康も私の中では、「大河の家康」のなかでは上位に入る好感度です。

A:その風間俊介さんの取材会が行なわれました。上方をルーツに持ち、江戸で出版業を営む鶴屋喜右衛門と吉原から日本橋に進出しようとあがく蔦重のせめぎあいは、『べらぼう』のみどころのひとつです。横浜流星さんに風間俊介さんという名伯楽の競演は、おそらく後世に「大河ドラマの名場面」と語り継がれるに違いないと踏んでいるのですが、風間さんは、横浜流星さんについて、こんなふうに語ってくれました。

蔦重は直感的に行動したり、気持ちや人との縁、思いみたいなものを大事にしているんですが、鶴屋というのは、今までの伝統を守りたいという思いであったり、商人として気持ちだけでは動けない部分というのが多々あるキャラクターだと思うんですよね。蔦重が一代で始めて、しかもちょっとイレギュラーなスタートを切っている本屋さんだからこそのフットワークの軽さであったり、伝統に縛られない新しいイノベーションであったりというのを、伝統を抱えている鶴屋から見ると、うらやましくもあり、妬ましくもある。だからこそ、鶴屋の立場としては、蔦重については認めるわけにはいかないということなんですね。この対極にあるふたりの対立というのはおもしろいなと思います。

I:視聴者という第三者の目から見ると、どちらの気持ちもわかるんですよね。

A:鶴屋喜右衛門は上方にルーツを持つ本屋ということに留意してください。品位はあるけれど、どこに本心があるのかわからない、「上方の商人」らしい佇まいの鶴屋喜右衛門の「性格」が風間俊介さんのニヒルな笑みによく表れています。すかっと爽やかな蔦重の笑顔との対比が抜群ですよね。

I:鶴屋さんと蔦重の間に転機が訪れたのは、浅間山の噴火で江戸にも灰が降り積もった際、蔦重が日本橋の人たちを鼓舞して灰を捨てる作業をした時です。

A:灰を桶で運ぶ、今でいうバケツリレーをしたわけですが、嫌なことも楽しくやってしまおうという蔦重の底抜けの明るさと前向きさに、鶴屋さんものる。もともと蔦重のことは心のどこかで認めていたからこその展開だったと思います。この感動の場面についての、風間さんのお話をどうぞ。

この『べらぼう』という作品が素晴らしいなと改めて思うのは、江戸の本屋さんたちの物語でありながら、今の時代にも通じるところです。このビジネスバトルの話だからこそ、現代の人たち、働く人たちには特に刺さる部分があると思いますし、そこがやはりおもしろい部分だと思います。でこぼこで、お互いに自分にないものを持っているふたりが並んだ時に対立するというこの形がまずおもしろいなと思っています。僕自身、鶴屋は間違いなく蔦重を認めていたと思っていますし、そういう描写もありました。本屋の仲間たちの中でも、鶴屋さんだけは蔦重を嘲笑することがあんまりないんですよね。にこやかに嫌みを言うなんてことはしているけれども、馬鹿にした笑いというのは、他の本屋さんたちはすることはあったんですけど、鶴屋はしてないはずなんですよね。そう思うと、鶴屋は蔦重をずっと認めていて、ゆえに、認めてはならぬっていうことでふたりの関係は第25回までは進んできたのかなと思っています。

I:風間さんは、ドラマや映画、舞台などで活躍する一方で、朝の情報番組などでMCを務め、さらには芸能界屈指のディズニー通という顔も持っています。まさにあらゆるところにアンテナを張り、新たな書き手を育てている鶴屋喜右衛門を地でいくようなキャラクターで知られています。風間さんにとって、どの顔が素に近いのでしょうか。

30代の頃は、誰かに寄り添うような役を多く演じさせていただきました。でも10代、20代の頃は、どちらかというと悪い役といいましょうか、何かを抱えていて、一筋縄ではいかないキャラクターを多く演じさせていただいたので、僕としては「ああ、イレギュラーな役がやってきたな」というより、原点回帰というか、「帰ってきたぞ」という体感で今回の鶴屋を演じさせてもらっています。

I:そういわれてみれば、確かにヒール的な役も多く演じられていますよね。爽やかな印象ばかり私の中では残っていましたが。

世の中の人たちの反応がおもしろいんですよ。僕が悪い人を演じると「全然イメージになかった」とおっしゃる方と、そういう役の印象しかない、とおっしゃる方がいて、反応が二極化するんですよ。僕としては役者冥利に尽きるというか、めっちゃおもしろいなと思ってそういう反応を見ているんですけど。僕自身はヒールのような役というか、ちょっと何か抱えているような役だと、「久しぶりだな、楽しいな」なんて思いながら演じているんですけど。あ、じゃ、いい役もヒールな役も、どっちもちゃんとできてたのかな? どっちも皆さんに印象づいてくれてるのかな、と思えて自信にもなります。僕自身はどちらも好きだし、与えられたキャラクターを全うしたいと思うだけなんですけど、それによって見てくださる人たちの「風間とは」みたいなものが人にとって全然違うというのがおもしろいです。

A:前述のように私は、リアルタイムで視聴していた金八先生のイメージが強いので、優等生の表情から裏の顔に変わる瞬間の、表情には笑みをたたえながら、狂気を含んだ目の演技に魅了されていたので、今回の鶴屋さんも笑いながら笑っていない風間さんの表情の演技がさすがだなと改めて思いました。

目が笑っていないということなんですが、僕、黒目が大きいらしいんですよ。でも、目があんまり大きく開かなくて。そうすると、まるで子供が絵を描いた時に白目を描かないで、黒目だけにすることってありますよね。あれってちょっと怖い感じになるじゃないですか。なので、たぶん僕の顔ってデフォルトでちょっと怖いんだと思うんです。それなのに、笑顔で、なんかいい人だよ、みたいにやっていたんですけど。でも鶴屋では、感情を宿さない目をしながら口角を上げると、まあ、新しい怖さが生まれましたよね(笑)。

I:こういう話を聞くと、もう一度見直したくなりますよね。そして、見直したくなるといえば、「蔦重の笑顔」。チーフ演出の大原拓さんなんかも横浜流星さんの笑顔にベタぼれのようなんですが、実は私も、ストーリーに関係なく、「蔦重の笑顔」には癒されているのですが、風間俊介さんも横浜流星さんの笑顔について言及してくれました。

蔦重がよく笑ってくれるんです。最近、流星君が僕にけっこう笑顔を見せてくれるんですよね。勝手に僕が横浜流星さんという人を、なんだか愛おしいなと思っているんです。ストイックさだったりとか、ミステリアスだったりとかっていうのもありますが、この大河ドラマというものの主役、多くの人たちが出入りする大河ドラマの真ん中に立つというのは、それはそれは大きなプレッシャーがあるはずです。きっと重い物を背負っているんだと思うんですよ。それを、ここまでは背負うけどここからはいいや、というのではなくて、僕が見ている横浜流星さんというのはたぶん全部背負ってスタートを切る人なんだと思うんですね。歯車だとか車輪というのは、最初に動かすときにとんでもないエネルギーが必要で、しっかり回り始めたら、持続してエネルギーを与えればきっと進んでいくんだと思うんですけど、それと同じで、この物語を動かすための原動力から、物語が加速して、その加速とともに一緒に進んでいけるようになったのかなと思うと、本当にその最初の頃の横浜流星さんの奮闘はすごかったんだろうなと思います。最初の段階からストイックにやっている姿を見ていましたが、あの時に心の中で動いていたものは、僕が想像するよりもはるかにすごいエネルギーを使って考えていたんだろうなと思うと、今の横浜流星さんの笑顔を守りたいなと思います(笑)。

灰桶リレーで一皮むけた鶴屋さん。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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