文/鈴木拓也

写真はイメージです。

ほとんど知らず、何もしない人が多い

定年退職を意識する年頃になって、にわかに気になりだすものに退職金がある。

さて、勤め先の退職金制度はどのようなものか、把握されているだろうか?

多くの企業の退職金は、確定給付企業年金か企業型確定拠出年金(企業型DC)のどちらかとなっている。前者は、支給金額はあらかじめ決まっている従来型の制度。後者は、企業が積み立てる掛け金を、社員が債券や株式などとして運用する形態だ。

企業型DCを導入している企業は5万社足らずだが、近年は右肩上がりに数を増している。

一方で、勤め先の退職金が企業型DCであっても、「詳しくは知らない」「何もせず放置している」という人が非常に多い―そう言うのは、一般社団法人確定拠出年金診断協会の代表理事を務める分部彰吾さんだ。

分部さん自身も、前職ではその制度を「全然理解できていない派」であったという。しかし、そのせいで、後々後悔している。

企業型DCを知らないまま放置するとまずいのは、適切な運用のあるなしで退職金に雲泥の差がつくからだ。

例えば、同期入社で役職も同じまま定年を迎えたAさんとBさんがいたとする。Aさんは放置、Bさんはきちんと運用した場合、Aさんの退職金は500万円ほど、Bさんは2000万円ということもありえるという。

そんなびっくりするようなことを、分部さんは、同協会理事の山上真司さんとの共著『確定拠出年金 退職金で損する人得する人』(ワニ・プラス https://www.wani.co.jp/event.php?id=8501)で記している。

50歳になるまで放置した結果……

本書の中で分部さんは、より具体的に50歳の男性の事例を出している。

この人は、大手通信企業の営業職として勤続28年目。賃貸マンションで妻子と暮らしている。企業型DCは退職金ということも知らず、定期的に送付される運用実績のレポートである「確定拠出年金のお知らせ」を、まったく無視していたという。

50代に入って初めてレポートを見て、予定される退職金があまりに少ないことに「愕然」とする。

老後資金が全然足りず、今から何とかできないかと、分部さんのところへ駆け込んだ。分部さんが提案したのは、世界各国の株式を対象とする投資信託100%に切り替えるというもの。

通常であれば、この年代からは「守りの運用」に変えていくのがセオリー。しかし、定年までの約10年で大幅な資産増を目指すには、積極的に打って出るしかないということでの提案であった。

この方法は、大きく資産を増やすチャンスがある反面、経済不安が発生して株価が暴落したら、受取額を減らしてしまうリスクがある。

幸い、この男性は個人の金融資産もしっかり持っており、企業型DCの実績が悪くても手元資産は確保できる。そのため、リスクを負って世界株式100%への決断ができた。

老後の暮らしに不足はないかゴールを見定める

Dさんほど切羽詰まっていなくても、企業型DCで豊かな定年を迎えるために押さえるべきことはいくつかある。

その第一歩となるのが、「現在地とゴールを知る」ことだという。

「ゴール」とは、要するに老後に必要なお金を指す。以前、「老後2000万円問題」が世間を騒がせたが、あれは住居費が毎月1.5万円で試算されている。定年後も住宅ローンが残っているとか、賃貸暮らしであれば、2000万円でも足りない可能性が出てくる。

さらに、定年後の諸物価はどうなっているか、公的年金はいくらもらえるのかなども加味しつつ、毎月いくらぐらいあれば生活できるかを計算しておく。

「現在地」とは、毎年1回送付されてくる「確定拠出年金のお知らせ」でわかる。内容を精査することで、今の運用実績だと退職金はいくらになるかが見える化できる。

もし、ゴールに到達するには足りないなら対策が必要だ。例えば、月々の掛け金を増額するのも一つの手だし、運用商品の見直しも前向きに考える。投資の世界では、リスクとリターンという言葉がよく使われるが、完全なノーリスクだと退職金もミニマムな額に落ち着いてしまう。運用レポートをよく調べ、リスクとリターンを天秤にかけながら運用商品を決めるよう、分部さんはアドバイスする。

なお、企業型DCは、定年時に受け取る代わりに、最長75歳まで受取開始を伸ばすことができる。そのため、定年時の運用成績が振るわない場合は運用を続行し、その間は別の金融資産でやりくりすることも可能。

ほかにも、企業型DCには、知らないではすまされない情報がいろいろとある。もし、「ウチの会社は企業型DCだけれど、全然興味なかった」というのであれば、今からでも遅くはない。本書を一読され、しっかり運用する方向へと舵を切ろう。

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『確定拠出年金 退職金で損する人得する人』

分部彰吾、山上真司著
定価1760円
ワニ・プラス

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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