文/鈴木拓也

日本人が、1日の間に座っている平均時間は、世界でも群を抜いて長いという。
長時間座る生活を続けていると、心筋梗塞、脳血管疾患、糖尿病といった疾病リスクが高まることは、よく知られている。
シニア層の座りすぎが特にあぶない
メディアでは、働く人の座りすぎ対策の特集が時折組まれる。が、さらに「深刻」なのが60代以降の座りすぎだと言うのは、整体師の南雅子さん。
南さんは、この世代が座りがちな生活を続けると、筋肉が弱り、関節が歪むなどして転びやすい身体になってしまう点を指摘する。骨ももろくなっているので、ひとたび転倒すると、骨折しやすく、それがきっかけで寝たきりになってしまうこともある。
それを防ぐため、「スクワットなどして足腰を鍛えましょう」という話はよく聞くが、南さんが注目するのは「かかと」だ。
なにはなくとも、真っ先に鍛えるべきはこの部位であると、南さんは、著書『死ぬまで歩くにはかかとをトントン鍛えなさい』(SBクリエイティブ https://www.sbcr.jp/product/4815627669/)で訴える。
かかとの衰えが諸悪の根源
南さんによれば、日ごろ鍛錬している人でない限り、かかとが「ぷにぷに」している人が多いそうだ。
この「ぷにぷに」は、かかとの筋肉が衰えている証拠。その影響は、本書でこう書かれている。
からだの重さに耐えきれず、ひざが歪み、股関節が歪み、背中が曲がり、頭を支えられません。いつ転んでもおかしくない、不安定な姿勢で立っていることになります。また、不安定な悪い姿勢だと、血液やリンパの通り道がふさがったり、呼吸がしづらくなるなどの弊害も出てきます。(本書4pより)
だから、「盤石」なかかとにすることが、極めて大事だと南さんは力説する。そこがしっかりと鍛えられれば、その健康効果ははかり知れない。容易に転ばなくなり、姿勢が良くなり、骨が強化され、免疫力がアップし、認知症の予防にもなるなど、驚くほどだという。
簡単な体操でかかとがよみがえる
では、かかとはどうやって鍛えればいいのか?
南さんが本書で教えるのは、「かかとトントン体操」に始まる一連の体操だ。どれも座りながらでき、筋力トレーニングのようなしんどさはまったくない。「本当にこんなラクなものでいいの?」と疑問に思えるぐらいだが、効果のほどはお墨付き。数々の体験談がそれを立証している。
ここでは、もっとも基本となる「かかとトントン体操」を紹介しよう。まずは準備姿勢として、椅子に浅く座る。このとき、片手は太ももに乗せ、もう片方の手はお腹にあてる(へそを背中に引っ込めるイメージ)。膝は90度曲げ、両膝同士はくっつけない。足は、ハの字に傾けたりせず、まっすぐ前方に向ける。(下写真参照)。

この姿勢を維持しつつ、太ももに手を乗せた側のかかとを上げてから、音を出すくらいに床に落とす。「トン、トン、トン、トン」とリズミカルに4回行う。5回目は、かかとを思い切り上げ、足裏をしっかり伸ばす。そして床にストンと落とす。その際、足裏全体でグッと床を押し、上半身の姿勢を正す。これを1セットとし、左右の足それぞれ3セットを行う。1日で行う頻度は、朝、昼、夕、晩の4回。そう言われると、ちょっと大変に思えるが、テレビを見ながら短時間でできるので、頑張って習慣づけよう。
本書には、こうした体操のほかに、転ばない正しい歩き方や杖のつき方、入浴や食事に関する生活習慣のアドバイスなどが満載。5年前は杖をついていたのが、今ではダンスを踊れるようになった70歳の方など、豊富な体験談にも勇気づけられる。座りがちな生活で不調を起こしているなら、一読され、実践してみてはいかがだろうか。
【今日の健康に良い1冊】
『死ぬまで歩くにはかかとをトントン鍛えなさい』

定価1540円
SBクリエイティブ
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。
