遺族年金は、一家の働き手や年金を受給している人が亡くなったときに、家族に支給される年金です。遺族年金の制度は複雑で、受け取るためには様々な要件を満たしていなければなりません。今回は、遺族年金をもらえるか、もらえないかという問題を中心に、遺族年金の仕組みについて人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
遺族厚生年金と遺族基礎年金の違い
遺族年金をもらえる人とは?
遺族年金をもらえる基準
遺族年金をもらえるかどうかのチェックポイント
まとめ
遺族厚生年金と遺族基礎年金の違い
遺族年金の代表的なものは、国民年金の遺族基礎年金と厚生年金の遺族厚生年金です。この2つの年金は、遺族の範囲や支給条件が異なっています。まず、国民年金と厚生年金の違いから見ていくことにしましょう。
年金制度の概要
最初に知っておくべきことは、年金は2階建てだということです。国民年金は全国民を対象とする制度です。厚生年金は適用事業所に雇用されている人が対象ですが、厚生年金の被保険者は同時に国民年金の被保険者ということになります。そのため、会社員だった人の多くは、65歳になると国民年金の老齢基礎年金の2階部分に上乗せされる形で老齢厚生年金が支給されます。
遺族年金の場合は、必ずしも老齢年金のように2階建てで支給されるとは限りません。遺族年金の受給には、様々な要件があるからです。特に、国民年金の遺族基礎年金は支給対象が限られているので、遺族厚生年金のみを受給しているケースが多くなっています。
遺族年金を受給する際に注意すべきポイント
一家の大黒柱が亡くなったとき、残された家族が頼るのは生命保険と遺族年金です。遺族基礎年金が支給されるためには、亡くなった人が次のいずれかの要件を満たしている必要があります。
(1) 国民年金の被保険者が死亡したとき
(2) 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の人で、日本国内に住所を有している人が死亡したとき
(3) 老齢基礎年金の受給者が死亡したとき
(4) 老齢基礎年金の受給資格を満たした人が死亡したとき
(3)(4)の場合は、保険料納付期間と免除期間を合わせて25年間以上あることが条件になります。
遺族厚生年金の場合は、国民年金を厚生年金、老齢基礎年金を老齢厚生年金に読み替えれば、(1)(3)(4)の条件は同じになりますが、さらに次の2つの条件が追加されます。
(5) 厚生年金の被保険者であった期間に、初診日のある傷病で初診後5年間以内に死亡したとき
(6)1級・2級の障害厚生年金の受給者が死亡したとき
なお、遺族厚生年金には(2)で挙げられているような国内居住条件はありません。
遺族年金をもらえる人とは?
次は、遺族の条件です。遺族基礎年金と遺族厚生年金の対象遺族について見ていきます。
遺族年金をもらえる人ともらえない人
国民年金の遺族基礎年金は、受給範囲の狭い年金です。もらえるのは、子のある配偶者と子だけ。子とは、18歳になった年度の3月31日までにある子か、20歳未満で障害年金の障害等級1級、または2級の状態にある子を指します。つまり、遺族基礎年金は条件を満たす、子のない配偶者や父母などはもらえないということになります。
また、配偶者が遺族基礎年金を受け取るときは、子に対する遺族基礎年金は支給されません。一方で、遺族厚生年金の場合は、遺族の範囲はぐっと広がります。ただし、遺族厚生年金には優先順位があり、最も先順位の遺族のみが年金を受け取ることになります。
第1順位 配偶者、子
第2順位 父母
第3順位 孫
第4順位 祖父母
このうち、子と孫に関する条件は、遺族基礎年金の子の条件と同じです。配偶者や父母などの年齢の条件は、次の項目で詳しく見ていくことにしましょう。
遺族年金をもらえる基準
遺族年金は、年収や年齢などについても様々な制約のある年金です。これらについて解説していきます。
遺族年金をもらえる年収と年齢の条件
遺族年金は、基本的に亡くなった遺族の生活保障のための制度です。そのため、「亡くなった人によって生計を維持していた者」の収入には、一定の基準が設けられています。年収850万円以上(所得655万5千円以上)の収入を将来にわたって有する者は、遺族年金の対象とは認められません。
だだし、遺族となった当時年収が高くても、近いうちに定年などで850万円未満の年収になることが想定されるときは、遺族年金受給者として認められます。これは遺族基礎年金、遺族厚生年金共通の条件です。年齢に関しても制限があります。遺族厚生年金の場合、夫は55歳以上でないと受給対象者になりません。
例外として、夫が遺族基礎年金の受給権者である場合は、55歳未満でも遺族厚生年金を受け取れます。父母、祖父母の場合も55歳以上であることが条件です。55歳以上の夫、父母、祖父母が受給権を得た場合、実際の支給開始は60歳からになります。
配偶者と子の条件
子に関しては、年齢などの要件を満たしていれば対象者となります。亡くなった人の子であれば、配偶者の子である必要はありません。被保険者等が亡くなった当時胎児だった子も、生まれた後は受給権者になります。また、遺族厚生年金には30歳未満の妻に特有の制度があります。
30歳未満の子のない妻は、5年間のみしか受給できません。また、妻が30歳になる前に、遺族基礎年金を受けとる権利がなくなった場合は、その時点で遺族厚生年金の受給権も失うことになります。
遺族年金をもらえるかどうかのチェックポイント
遺族年金を、もらえるか、もらえないかの判断が難しいケースもあります。いくつかのポイントを確認してみましょう。
遺族年金の受給資格を確認する方法
遺族基礎年金のチェックポイントは、以下の3つです。
(1)亡くなった人が支給要件を満たしているか
(2)18歳に達した年度の3月31日まで、または20歳未満で障害等級1級また2級である子がいるか
(3)遺族の年収が基準以下であるか
遺族厚生年金の場合は、上記の(1)(2)(3)に加えて次のポイントがあります。
(4)夫の場合、55歳以上であるか
(5)子や配偶者がいない場合、父母・祖父母・孫は年齢要件を満たしているか
原則として、これらのポイントをクリアしていないと支給対象になりません。
受給資格に関するよくある質問
よくある質問のひとつは、遺族年金はずっともらえるのかということです。遺族年金には、「支給停止」と「失権」という制度があります。支給停止は、一時的に支給が止まることです。たとえば、55歳以上の夫の遺族厚生年金は、60歳までは支給停止となり、60歳になると支給が開始されます。失権は、受け取る権利そのものが消滅することです。
遺族が婚姻したとき、離縁によって亡くなった人との親族関係が途絶えたときは、遺族年金を受け取る権利は消滅します。また、受給者が直系血族や直系姻族(おじいちゃん、おばあちゃんなど)以外の人の養子になったときも失権します。子が失権した場合、配偶者の遺族基礎年金も失権することになります。
そのほかにも、30歳未満の子のない妻特有の失権など、いくつかの注意点があります。気になる人は、日本年金機構のホームページなどを確認するといいでしょう。
まとめ
ねんきん定期便などで老齢年金については気にしていたとしても、遺族年金は意識していない人は多いと思います。
遺族年金は、万一のとき、残された家族を支える年金です。年金の種類や受け取れるかどうかなどについて、基本的な知識を身に付けておくといいでしょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com