編集者A(以下A):10月2日に、2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟!』の新規キャスト発表会がありました。場所は渋谷のNHK内のスタジオ。主人公は秀吉の弟豊臣秀長で、仲野太賀さんが演じることが決まっていました。事前に4名の新キャスト発表ということを聞いていたので、秀吉と寧々は確実として、ほかのふたりは誰? 母親のなか? 信長は? いや信長はまだだろう、などとぶつぶつ言っている間に、広報担当者の司会のもとで会見が始まりました。
ライターI(以下I):すでに、さまざまな媒体で紹介されていますが、当日発表されたのが、豊臣秀吉役に池松壮亮さん、秀吉の正室寧々役に浜辺美波さん、秀長正室の慶(ちか) 役に吉岡里帆さん、秀長の初恋の相手直(なお)役に永野芽郁さん。なんという豪華な面々! 今年3月の発表では主役の仲野太賀さんのみの発表でしたが、秀吉役の発表で盛り上がってきましたね。
A:仲野太賀さんと池松壮亮さんのふたりが並んでの撮影タイム、会見で出た「ふたりとも猿顔」というフレーズなどが飛び交う中で、ぼんやりと秀吉と秀長って日本の歴史上「奇跡の兄弟」なのではないかという思いが湧き上がってきました。
I:どういうことですか?
A:「大河ドラマと兄弟」というくくりで考えると、源頼朝・義経の兄弟(直近では『鎌倉殿の13人』)、足利尊氏・直義の兄弟(『太平記』)、織田信長・信勝の兄弟(『信長 KING OF ZIPANGU』)、伊達政宗・小次郎の兄弟(『独眼竜政宗』)などが浮かんできます。
I:頼朝と義経の兄弟は母が異なりますが、「足利兄弟」「織田兄弟」「伊達兄弟」はいずれも同母兄弟。にもかかわらず、最終的には決裂。命の奪い合いに発展してますね。兄が弟を亡き者にするという「弟殺し」って多いんですね。
A:そんなことを考えると、弟秀長が兄を補佐して、ともに出世していく「豊臣兄弟」って、「奇跡の兄弟」ですよね。農民から大名、後には天下人まで昇り詰めた「奇跡」。それは秀吉一人の力ではなく、秀長の補佐なくして成し遂げられなかったということを考えると「兄弟仲の奇跡」もすごい!
I:ふたつの奇跡! それが豊臣兄弟の本質だということですね。確かに「織田が搗き、羽柴がこねし天下餅、すわりしままに食うわ徳川」という落首がありますが、徳川が築いた300年の平和の基礎工事の大半は秀吉の手になるもの。ということは秀吉を補佐した弟秀長の功績も大。ということを考えると、秀長で「奇跡の兄弟」が主人公の大河ドラマって、なんか面白くなりそうではないですか?
『豊臣兄弟!』は面白くなる! その理由
I:さて、当日の会場には脚本を担当する八津弘幸さんの姿もありました。
A:打ち合わせの後にそのまま合流という感じだったと思うのですが、「この作品は絶対に面白くなる」と確信する場面がありました。そのことを大河ファンの方々に報告したいと思います。
I:はい。
A:改めて説明するまでもなく、八津弘幸さんは、『半沢直樹』『下町ロケット』『家政夫のミタゾノ』など、ヒットドラマを連発している大家でもあります。その八津さんが、少年のような澄んだ目で会見の様子を終始ニコニコして見守っておられた。さばかりか、演者の撮影タイムには自らのスマホで楽しそうに撮影していました。
I:そうなんですか。
A:『豊臣兄弟!』の脚本を単に仕事として受けているのではないという印象を強く持ちました。まさに八津さんから「大河愛」がほとばしる風景。その場面に触れた私は、「これは絶対に面白くなる」と確信したわけです。
I:日本の歴史上空前絶後の「奇跡の兄弟」。そうなると、秀吉、秀長の兄弟に対して「サルっ」と叫ぶのは誰なのか。
A:信長を演じるのは誰か――。ということですよね。その日が待たれますね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。「藤原一族の陰謀史」などが収録された『ビジュアル版 逆説の日本史2 古代編 下』などを編集。古代史大河ドラマを渇望する立場から『光る君へ』に伴走する。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2024年2月号の紫式部特集の取材・執筆も担当。お菓子の歴史にも詳しい。『光る君へ』の題字を手掛けている根本知さんの仮名文字教室に通っている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり