「嘱託」という言葉を、耳にしたことのある人は多いと思います。「定年後に嘱託として働く」という働き方は、現在のように、定年後の継続雇用が広く導入される前からありました。しかしながら、嘱託社員とは具体的にどのようなものなのか、ピンとこない人も少なくないと思います。

今回は、嘱託の定義はあるかということを発端に、定年後の嘱託社員について人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。

目次
嘱託社員とは?
嘱託社員の待遇面
嘱託社員として働く際に気をつけたいこと
まとめ

嘱託社員とは?

まずは、嘱託社員について見ていきましょう。

嘱託の定義はある?

嘱託社員は、定年後も引き続き企業と契約を結んで働く従業員を指します。現在は高年齢者雇用安定法により、希望者全員の65歳までの雇用確保措置が義務化されています。そのため、再雇用制度を利用して働く人を嘱託と呼んでいるケースもあるようです。ただし、再雇用と嘱託は同義かというとそうではありません。

高齢者雇用の法整備がなされる前から、嘱託という制度は存在していました。旧来の嘱託制度は、定年後の継続雇用を目的としたものではなく、専門的な知識やスキルを持っている人が、定年後も会社と契約して働くことでした。今でも、嘱託を専門職的な位置づけとして、一般の再雇用と区別している会社もあります。たとえば、嘱託社員に特定の業務を委託して任せるという形です。

このケースでは、他社を退職した人も嘱託として契約する場合もあります。嘱託社員は、正社員、契約社員、パートタイマー、業務委託と比較するとどのような違いがあるのでしょうか? 嘱託というのは、明確な定義があるわけではありません。企業によって嘱託の扱いは異なりますので、雇用形態に着眼して見ていくことにしましょう。

嘱託の契約内容は?

嘱託が会社と労働契約を結んで働く場合、正社員との違いは雇用期間です。正社員は雇用期間の定めのない従業員ですが、契約社員、パートタイマーは有期の雇用契約を結んで働く従業員です。雇用契約は、一定の期間ごとに更新することになります。つまり、雇用契約のもとに働く嘱託は、契約社員、定年後再雇用者と同様、有期雇用労働者ということになります。

業務委託の場合

もうひとつの例は、業務委託契約を結んで働く場合です。会社によっては、定年後に専門的な仕事を業務委託する人を嘱託としている例もあります。業務委託というのは、一定の業務を依頼してその成果を受け取る契約であり、労働契約ではありません。

そのため、受託する人は労働者ではなく事業主であり、業務の遂行方法などは主に受託者にゆだねられています。有期雇用労働者として労働契約を結ぶ場合は、会社の指揮命令下で働くことになりますので、この点が業務委託とはまったく異なります。

嘱託社員の待遇面

労働契約で働く嘱託社員は、契約社員、パートタイマーなどと同様の有期雇用労働者です。ただし、定年後の嘱託社員、再雇用者は、雇用契約の更新において他の有期雇用労働者と異なる扱いをしている場合もあります。一般の有期雇用労働者は、契約期間が5年を超えると、期間の定めのない「無期雇用契約転換」を申し込むことが可能になります。

再雇用の場合は、「有期雇用特別措置法」によって、契約の上限を5年以下としている例が多く見られます。これは、都道府県労働局長の認定を受けることによって、無期転換への申し込み権が発生しないようにする特例です。その他の労働条件については、嘱託社員になる際の雇用契約の内容によります。定年後再雇用の場合、雇用形態や職責の変化に伴って給与も3割から5割程度減額となることが一般的です。

再雇用者と区別しているケースも

嘱託の場合、会社によっては待遇面で通常の再雇用者と区別している例もあります。専門的な業務に従事するスペシャリストとして、年俸制などの特別な給与体系をとっている例、就業時間や勤務日数などを少なくしている例などが見られます。これが業務委託である場合は、報酬や契約期間は仕事の内容によって異なります。

労働者ではないので、すべて自己責任で業務を遂行しなければなりません。自らの裁量で働ける自由さはありますが、高い信頼が求められる働き方であるといえるでしょう。

嘱託社員として働く際に気をつけたいこと

会社から、「定年後、嘱託として残らないか?」と打診があった場合、気をつけなければならないのは嘱託としての契約の内容です。嘱託制度は法律で規定されているものではありません。労働契約と業務委託契約では、まったく条件が異なります。労働契約であったとしても、嘱託の場合、65歳までの雇用確保を目的としたものではない場合が多いので、注意が必要です。

契約期間、契約更新の条件など、通常の再雇用とは異なる項目が付されている場合もあります。ただし、高い専門性を有している人の場合、65歳を超える契約や一般の再雇用者より、高額な給与が提示されることもあるので、マイナス面ばかりではありません。

もう一つの注意点とは?

もう一つの注意点は、社会保険の加入の有無です。週の労働時間や勤務日数が大幅に減っている場合、社会保険の加入対象にならないこともあります。雇用保険の被保険者になるためには、週の所定労働時間が20時間以上、健康保険・厚生年金の場合は週20時間以上またはフルタイム社員の4分の3以上であることが要件です。社会保険の適用については会社に確認しておきましょう。

業務委託の場合は、自己責任で仕事を遂行しなければならず、社会保険の加入もありません。ただし、副業をする予定の人、複数の会社から仕事を受託したい人などは、再雇用より業務委託契約のほうが都合のいいこともあります。業務委託のメリット・デメリットについて納得したうえで、受けるかどうかの選択をすることが重要です。

まとめ

高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保が義務化される以前は、定年後嘱託として会社に残る人は少数でした。定年後の再雇用が普及した今、嘱託社員の位置づけは以前より曖昧になっています。一般的には、嘱託は再雇用者全員を指すのではなく、経験やスキルを活かして専門的な仕事に従事する人としているケースが多いようです。


ただし、嘱託の契約内容、雇用形態などは会社によって大きな違いがあります。自社の再雇用制度、嘱託の位置づけをよく理解した上で、納得できる選択をしましょう。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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