字画も少なく、しょっちゅう⽬にする簡単な漢字。読めそうなのに、いざ声に出して読もうとすると、正しく読めるかどうか⼼配になって、思わず声を細めてしまう漢字ってありませんか? サライ世代ともなりますと、いったん思い込み認知をしておりますと、なかなかイニシャライズ(初期化)が難しいですよね。
簡単な漢字であっても、脳トレ漢字の記事を読みながら確認学習をしていただくことで、思い込み認知をイニシャライズできる機会になると思います。
「脳トレ漢字」第205回は、「心が逸る」などと表現する際の「逸る」の読み方をご紹介します。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「逸る」とは何とよむ?
「心が逸る」の「逸る」はなんと読むか、ご存知でしょうか? 「いつる」ではなく……
正解は……
「はやる」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「あせる」「勇みたつ」と意味が説明されています。「逸る気持ちを抑えられない」などのように使われることが多い、「逸る」。「逸る」は「早る」とも書き、「はや(早)」が動詞化したものです。心が一つのものにひかれ、その方向に進むという意味があります。
「逸る」の漢字の由来は?
「逸」という漢字は、「うさぎが走って逃げる様子」を表す会意文字。「兔」はうさぎ、「辶」は行くことを表しています。そこから、「逃げる」「それる」「うしなう」という意味が含まれるようになったと考えられます。
ほかにもある、「逸る」の読み方
「逸る」には、「あせる」「勇み立つ」という意味があると紹介しましたが、このほかにも、「夢中になる」「明朗快活で機転が利く」という意味もあります。
また、「逸(そ)る」と読んで、「思いがけない方向に飛んでいく」「鳥が手元から離れて飛び去る」という意味として使われることもあります。
さらに、「逸(はぐ)る」と読んで「機会を逃す」「離れ離れになる」という意味として使われることもあります。「人が多くて、家族とはぐれてしまった」などのように使われる「はぐれる」は、漢字で表記すると「逸れる」になるのです。
「機会を逃す」という意味として使われることは、現在ではあまりありません。しかし、明治から昭和初期にかけて活躍した文豪・幸田露伴(こうだ・ろはん)は、代表作『五重塔』の中で、この意味で「逸る」を使用しました。
『五重塔』が発表されたのは、明治24年(1891)から25年(1892)にかけてのこと。およそ130年前のことですが、言葉の目まぐるしい変化を感じますね。
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いかがでしたか? 今回の「逸る」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか?
「逸る」のように、一つの語に複数の読み方や意味が含まれる言葉はほかにもたくさんあります。ぜひ調べてみてください。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
HP:https://kyotomedialine.com FB
参考資料/『デジタル大辞泉』(小学館)
『日本国語大辞典』(小学館)