多様な働き方が広く認められている今、ダブルワークをしている人も相当数いると思います。ダブルワークと一口に言っても働き方は人それぞれです。会社員として働きながら副業を行なっている人もいれば、非正規雇用のパート・アルバイトとして、複数の会社に雇用されている人もいます。ダブルワークをしている場合、雇用保険はどのような扱いになるのでしょうか?
今回はダブルワーク時の雇用保険というテーマについて、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説していきます。
目次
パートやアルバイトでダブルワークした場合、雇用保険は?
ダブルワークをしている人は失業給付をもらえる?
65歳以上に! 雇用保険マルチジョブホルダー制度
まとめ
パートやアルバイトでダブルワークした場合、雇用保険は?
近年、副業を認める会社はずいぶん増えてきました。平日は正社員として会社で働き、休日などにアルバイトをしているという人は相当数います。さらに、今はインターネットビジネスも盛んですから、動画の配信やネット・オークションなどで、収入を得ている人も少なからずいるでしょう。このような人の場合は、会社員として雇用保険の被保険者となっている人がほとんどですから、雇用保険の加入についての心配はあまりないと思います。
問題なのは、二つ以上の会社で非正規の労働者として働いている人の場合です。複数のアルバイトを掛け持ちしているという人は多いと思いますが、その場合の雇用保険はどうなっているのでしょうか? 雇用保険の適用事業所に雇用されて働いている人が、被保険者になる要件は定められています。昼間学生でないことに加えて、「所定労働時間が週20時間以上であること」「31日以上雇用される見込があること」です。
正社員、アルバイトを問わず、この要件を満たしていれば、会社は雇用保険の資格取得届を提出しなければなりません。複数の会社で働いている場合、どれか一つの職場でこの要件を満たしているなら、雇用保険の被保険者になることができます。もしも二つ以上の会社で、この要件を満たしていたとしたらどうなるでしょうか? 雇用保険は、同時に二つ以上の事業所で資格を取得することはできません。
生計を営む上で、主たる収入を得ている1社でのみ、雇用保険の被保険者になることができます。したがって、通常は収入の多い方の会社で被保険者になることになります。
ダブルワークをしている人は失業給付をもらえる?
ダブルワークをしている人が、そのうち1か所で雇用保険に加入していたとします。被保険者となっている会社を退職することになったら、失業給付の申請はできるのでしょうか? まず、失業給付の基本手当の対象となる、65歳未満の一般被保険者について見てみましょう。離職して失業給付を申請できる条件は、離職するまでの2年間で12か月間の被保険者期間があることです。会社都合の離職の場合は、この期間は1年間で6か月に短縮されます。
この要件に当てはまれば、基本手当はもらえることになります。ただし、基本手当を受給するためには、失業の認定を受けなければなりません。そのためには「求職活動をすること」「現在失業しており、いつでも就職できる状態になること」という条件を満たす必要があります。ハローワークで失業の手続きをすると、基本手当支給開始まで7日間の待期期間があります。この期間に働いていたら、失業の認定はされませんので注意が必要です。
自己都合退職の人は、待期満了後2か月から3か月の給付制限がありますが、その間に仕事をすることはさしつかえありません。基本手当が支給開始になると、仕事をしていた日については、手当が不支給または時間、収入より減額になります。詳細はハローワークの資料や説明会などで、しっかり確認しておくといいでしょう。なお、65歳以上の被保険者を対象とした、高年齢求職者給付金は一時金ですので、失業状態が認められれば受給することができます。
また、パート・アルバイトをしながら、個人事業主として事業を営んでいる人もいると思います。この場合でも、雇用されている事業所で雇用保険の加入要件を満たしていたら、被保険者となることができます。個人事業にはリスクもありますが、事業を廃業したとしても、アルバイト先の会社で雇用保険者の被保険者として、継続して働くことができます。ただし、雇用されている会社を辞めたとき、個人事業主として事業を行なっていたら、失業状態とは認められません。
失業が認定されなければ、失業給付はもらえませんから、その点は認識しておきましょう。
65歳以上に! 雇用保険マルチジョブホルダー制度
雇用保険は二重に加入することができない制度ですが、この例外となる制度が2022年に創設されました。それが「雇用保険マルチジョブホルダー制度」です。この制度の対象者は、複数の事業所で雇用されている65歳以上の労働者です。
具体的には、「5時間以上20時間未満で働いている事業所が二つある場合、それぞれの労働時間を足して20時間以上になること」「二つの事業所で31日以上雇用される見込みがあること」が要件となっています。平均寿命が延びた今の時代、65歳以上になっても働いている人の数は増えました。短時間の仕事を複数掛け持ちしているという人も少なくありません。
その意味では、今の高齢者の現状に沿った制度と言えるでしょう。ただし、この制度は本人がハローワークに申し出る必要があります。適用を受ける2社に証明を依頼し、必要書類をそろえてハローワークに申し出ることにより、申し出たその日から特例的に被保険者(マルチ高齢被保険者)となることができます。被保険者になることにより、高年齢求職者給付金の対象になるほか、育児・介護休業給付、教育訓練給付などを申請することも可能になります。
まとめ
働き方の自由度が広がった今、ダブルワークをする人は相当数います。就業のルールも柔軟になり、副業を認める企業も増えてきました。ただし、雇用保険は、マルチジョブホルダー制度の特例を除いて、二つ以上の会社で資格取得することはできません。本来、雇用保険制度は労働者の雇用確保と生活の安定を目的としているものだからです。ダブルワークをしている人は、雇用保険について理解した上で、賢く制度を利用しましょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com