緻密な細工に現代の美意識を生かす
「象る」「嵌め込む」と書いて象嵌(ぞうがん)。ひとつの素材に異質の素材を嵌め込む工芸技法のことで、大陸から奈良時代に日本に伝わったとされる。江戸時代には刀の鍔や甲冑、根付けや文箱などに用いられ、現在は金沢、京都、熊本が主な産地だ。なかでも京都では鉄の表面に布目という細かい溝を入れ、金や銀を貼り付けて模様を作る布目象嵌が発展、京象嵌と呼ばれている。
「斬新で豪華なデザインの加賀象嵌、重厚感のある肥後象嵌、そして京象嵌は繊細で優美な細工が特徴です」と話す『中嶋象嵌』の中嶋龍司さん(42歳)。祖父から技を受け継ぎ、素材や形に現代性を加味した京象嵌を制作している。
地金に細かく溝をつける
15ほどの工程を要する象嵌づくりのなかで、もっとも難しいのが最初に行なう布目切りという作業である。鉄の表面に鏨(たがね)を当てて槌で叩(たた)き、少しずつずらしながら、指先の感覚だけで均等に1mmに7~8本の溝を縦横につける。拡大鏡で覗くと、そこには微細な凹凸が規則正しくついている。10年の修業を有する京象嵌の要である。
この布目に、花びらや幾何学模様などの型抜きをした純金や純銀を嵌め込む。これを入嵌という。
入嵌には下絵があるわけではなく、職人自らのイメージで小さな金槌で打ち込んでいく。その後、布目を消すための腐食や錆出し、漆焼き、模様の研ぎ出しなどの工程を経てようやく完成。漆黒のなかに浮かび上がる金色の輝きは、神秘的な美しさと気品に溢れる。
中嶋象嵌
京都市右京区嵯峨天龍寺北造路町9-1-1
電話:075・871・2610(本店)
定休日:無休
交通:京福電気鉄道嵐山駅から徒歩約3分
取材・文/関屋淳子 撮影/奥田高文
※この記事は『サライ』本誌2024年6月号より転載しました。