ライターI(以下I): 本作の秀吉(演・ムロツヨシ)を見ていると「猿芝居」の語源が秀吉のことなのではないかと錯覚させられます。
編集者A(以下A):人たらしと評される秀吉の面目躍如という場面でした。家康(演・松本潤)、酒井左衛門尉(演・大森南朋)、本多正信(演・松山ケンイチ)、榊原小平太(演・杉野遥亮)、鳥居彦右衛門(演・音尾琢真)が秀吉と秀長(演・佐藤隆太)、寧々(演・和久井映見)と酒宴を催す場面は、なかなか面白い演出だと思いました。
I:秀吉と寧々のかけあいが漫才のようでもあり、絶妙な連携プレー。弟の秀長も交えて、実際にこういうやり取りをして色々な人を篭絡していたのかと思いましたね。
A:絶妙だったのが、小牧長久手の戦いで秀吉を罵倒・愚弄する檄文を書いた榊原小平太に対して〈こっちはわしの悪口をさんざん書き連ねた榊原康政!〉〈いやあ名文だったがや〉というやり取りのあとで寧々が〈文武に秀でたるご様子〉と合いの手を入れる。小平太は〈その節はご無礼を〉と返すのがやっとでした。
I:思わず笑っちゃいますよね。でも、関白から直々にあのように声をかけられるなど本当は凄いことなんですけどね。来年の『光る君へ』の時代の関白と比べてみたら面白いですよね。きっと。
A:『光る君へ』の時代の武士は、関白に直答すら許されないほど下に見られていた関係です。それを考えたら隔世の感有りです。関白自ら家康の家臣に声をかけて回るわけですから。
I:さて、私が印象に残ったのは、秀長が兄秀吉について語っていた〈人は自分より下だと思う相手と対する時本性が顕われる。だからみっともない訛りを使い、卑しきふるまいをして、常にいちばん下から相手の本性を見極めるのだと〉という台詞です。人たらしの極意なんですかね。
A:今もそういう人いますよね。自分はまったく知らないふりをして相手に語らせる。その時の態度、知識のレベルを見て、値踏みする。
I:怖いですね。知ったかぶりなんかすぐにバレるって話ですね。さらに寧々も秀吉について語ります。〈信頼できると思えたのはふたりだけ。信長さまと徳川殿。おふたりとも裏表がないと〉と言っていました。この台詞はびっくりでした。視聴者は家康が「信長を討つ」と決意したにもかかわらず、何食わぬ顔で接待を受けていたことを知っています。
A:それは裏表というよりも、生き残りをかけた心理戦の類でしょう。ともあれ、きっと秀吉はすべてお見通しということだったということなのではないでしょうか。大坂城で家康は、〈天下一統のため励みまする〉と秀吉の陣羽織を所望します。秀吉に代わって戦うので秀吉はもう戦う必要がないというのです。
I:陣羽織のくだりはさすがに笑えますね。そのやり取りは、究極の猿芝居であり、狸おやじ的でもありました。
【石田三成との出会いと天体観測。次ページに続きます】