マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、サライ世代に向けて、ビジネスの最前線の問題を解説するシリーズ。今回は、優秀な社員がなぜ退職してしまうのかを考察します。
今後は企業の人材不足が加速していきます。また、新卒採用は売り手市場がさらに拍車をかけていく中で、「優秀な人材の離職」の問題は、優先順位の高い経営課題ではないでしょうか。そこで、「どのように仕組みを作るべきか?」をフレデリックハーズバーグ理論の【二要因理論の「衛生要因=働きやすさ)」と「動機付け要因=やりがい」】の観点で考察していきましょう。
社員が退職するきっかけは?
転職支援サービス『エン転職』が2019年に実施したアンケート結果(回答者10,074名)によると、退職を考えはじめたきっかけの第1位は「やりがいの欠如」でした。20代では「給与」「拘束時間」「成長感の低下」、男性では「企業の将来性」、女性では「家庭の事情」の影響も大きいことが分かりました。
※1万⼈が回答!「退職のきっかけ」実態調査-『エン転職』ユーザーアンケート-より抜粋
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2019/19432.html
その中で注目すべきは「やりがい」と「人間関係」です。人間関係は本音ベースのアンケート結果で1位というデータもあります。「飛ぶ鳥跡を濁さず」と考えて、本音を言えていないケースも多いということです。
つまり、会社は社員が「やりがい=成長感・達成感を実感できる環境」を感じて、「働きやすさ=人間関係で悩ませず、集中できる環境」を作ることが求められます。
働きやすさ:人間関係で悩むとは?
例えば、職場を小学校のクラスだと考えてみましょう。小学校のクラス30~40名でも仲良しグループ7~8つに分かれませんか? スポーツ系・文化系、不良・まじめ、見た目が派手・地味など。つまり、小集団化されることで、それぞれのチームが「自分に都合の良い居心地の良い組織状態を作ろうとする」のです。
居心地が良い組織は、「居心地の悪いことはやらない⇒都合の悪いことはやらない」と変換されて結果的に利己的な組織になります。そのようなクラスでは、「気が強い不良グループが、気の弱い真面目グループに面倒なことを押し付ける」ということが起こり、いやな思いをする人が発生します。また、「あのチームとは一緒にやりたくない」など、組織の一体感は損ねられます。
このような組織は、「好き/嫌いが組織の価値判断基準」になっています。そして、この価値観が合わないことで、余計な感情が発生することになり、人間関係で悩むようになります。
つまり、「組織がグループに分かれる⇒それぞれのグループ内は居心地が良い⇒居心地や都合の悪いことはやらない⇒嫌いな人とは一緒にしたくない⇒人間関係で悩む」、となります。
働きやすさ:人間関係をどう解決する?(ハード面)
ハード(会社側の環境設計)をどのように設計すればよいでしょうか。
話を会社組織に戻します。趣味のグループであれば、好き嫌いのコミュニティでも成立しますが、会社はそうではありません。
会社では、目的(理念)の実現に向け集まった各々が、与えられた役割を全うすることによって、組織が機能的に動いて、戦略実行ができるようになります。属するメンバー(社員)が、個人の価値観(組織ルールよりマイルールを優先)で、利己的(組織利益より個人利益を優先)に動くようであれば、リーダーは戦略を実行して市場の評価を獲得できるでしょうか? 答えはノーですよね。
ここで組織論の話をします。企業が市場の評価を獲得するには「戦略×マネジメント」が必要ですので、リーダー(社長)が市場の評価を獲得するための戦略を組織は実行することが求められます。よって、ルールを明確にして、各人に認識がズレないようにすることが大切なのです。つまり、フォーメーション(組織図)を整えて、指揮命令系統を明らかにして、組織図のポジションに紐づいた機能(役割定義表/人事評価制度)を明確にして、KPI管理(重要業績評価指標)が必要です。ここまでが環境設計です。つまり、パソコンで言うとハードです。
ソフト面(社員側の思考クセ)をどのように教育するか
人は思考にクセ(独自の価値観やマイルール)があるため、会社で糧を得るためには、どうすべきかを教育することが必要です。もし、ハード(会社側の環境設計)とソフト(社員側の思考クセ)が正しく連動しないと、バグ(不具合)が起こります。
勘違いしているケース① 部下育成をしないプレイングマネージャー
プレイングマネージャーはマネージャーのため、「組織評価100%」で評価すると、「部下育成しないと役割を果たせない状態」になり、部下育成に本気で向き合います。一方、プレイング機能も評価しようとして、「個人50%・組織50%」にすると、プレイング機能で目標達成しようとして、部下育成する意識が乏しくなります。よって、評価制度を正しく整えて、マネージャーの役割を教育することが必要です。
勘違いしているケース② 上司の指示に従わない部下
上司よりも上回っている知識や経験(年齢、社歴、個人業績、資格など)があると、上司の指示を選択できる、つまり、納得しないとやらなくても良いと勘違いするケースです。
そのような状況下で、上司が部下に「〇〇さん、お願いできるかな?」と指示を出すと、部下に選択権が渡って、部下は「断れる立場=上司を同位」と勘違いします。正しくは、上司と部下は役割の関係であり、上司は結果責任、部下は実働責任であるため、部下は責任の大きい上司の指示に従うだけです。そのため、部下に「いつまでに、どうして欲しいのか」を明確に、言い切ることが大切です。
また、部下は、上司の指示よりも良いプランがあれば、遠慮なく根拠とセットでプランBを提案しましょう。そのプランを承認するか否かは上司次第ですが、適切な提案であれば、受け入れてくれるでしょう。
やりがい:成長感・達成感がないとは?
例えば、小学生の時に、通知表がない。あったとしても評価自体があいまいなケースや先生の好き嫌いで評価が決まっていたら、成長感や達成感は感じますか? 答えはノーですよね。夏休みの宿題で、「自由研究で、なんでもいいので提出してください」と言われたので、鉛筆画をかいて提出したら「これは下書きでしょ。普通は色を塗って水彩画にするものでしょう」と言われて、「下書き(=製作途中)」と評価されて、高い評価を得られなかったとします。どのような感情になりますか?
話を会社組織に戻します。
あなたの会社では、「何を求められているのか(人事評価制度)」が明確になっていますか?
上司の求める「A」が曖昧で、部下は自己解釈して「A´」をやってしまうケースは、そのズレが無駄働きになります。また、部下は「A´」は頑張ったと思っていますが、「評価されていないと腐って指示待ちする」「うちの上司はおかしいと不満を口にする」ようになり、最終的に生産性が下がって離職に繋がります。
やりがい:成長感・達成感をどう解決する?(ハード面)
ハード面(環境設計)をどのように設計するか。そもそも、マネジメントとは、「リーダーが市場の評価を獲得するため、戦略的かつ機能的に組織を動かすこと」です。
その評価は、「一方通行(市場⇒社長⇒部長⇒課長⇒課員)」であり、「一つ上の評価者の評価を獲得すること=社長が市場の評価を獲得できる」となるため、明確に認識がズレないものを設定することです。特に定性的なものを数値化してどのように評価するかがポイントです。
入社間もない新卒であれば、スキルマップを作成して習熟度を評価します。自動車教習所のイメージで、学科試験と技能試験があり、必要単位やスケジュールを明確にします。
例えば、「自社のスキルマップを作成して、3か月で30点(学科15点、技能15点)を習得してください」とすると、月10点、週3点の合格が必要なため、そのスケジュールを自分で計画して、研修が必要であれば、上司に提案(今週2時間、研修時間を下さい/ロープレでチェックしてください等)を自発的にするようになります。
やりがい:成長感・達成感をどう解決する?(ソフト面)
ソフト面(社員側の思考クセ)をどのように教育するればよいでしょうか。
ポイントは、結果で管理することです。上司がプロセス介入(事細かく、指示を出す)をすると、部下は指示待ちになり、未達時に「上司の指示が悪い」と他責思考になります。
よって、やり方は自分で考えさせることです。そのために、週1回の低いハードルで目標設定します。また、その目標達成において部下に困っていることはないか?」と確認して、困っていれば、欲しい権限を与えて「責任=権限」の状態にして、部下が集中できるようにします。
その結果、「目標3点に対して結果3点を達成すると達成感」を感じます。また、「できなかったことが、出来るようになると成長感」を感じるのです。このように、結果の後に、本人の中からこのような感情が勝手に発生する状態が「真のモチベーション」になります。また、自己成長が会社成長に貢献できていることを認識すると「エンゲージメント」になります。
つまり、部下がこのような感情を自然発生するように上司は正しい管理が求められるのです。
まとめ
・「働きやすさ(人間関係)」と「やりがい(成長/達成感)」で、整備する。
・「ハード面(会社側の環境設計)」と「ソフト面(社員側の思考のクセ)」で、整備する。
・人間関係(マイルール)ではなく、組織ルールを設定して、運営する。
・モチベーション、エンゲージメントが自然発生するように結果で、管理する。
上記のポイントを押さえて、優秀な社員が離職しない組織をつくりましょう。
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