岩谷堂箪笥の伝統が宿る、和の趣あふれる小物入れ
岩手県奥州市で作られる岩谷堂箪笥は、どっしりとした佇まいと荘厳な飾り金具を特徴とし、昭和57年に国から伝統的工芸品の指定を受けた由緒正しき木工品である。
岩谷堂箪笥の歴史において重要な役割を担ったのが、三品茂左衛門という人物だ。江戸時代中期、伊達藩の岩城氏に家臣として仕えていた茂左衛門は、奥州市にある岩谷堂城の城主となった岩城氏について岩谷堂城に移った。その後、天明の飢饉を契機に始まったのが箪笥製作である。城主の命により箪笥を作り始めた茂左衛門は、この新しい産業の中心となって活躍したと伝えられている。
茂左衛門の流れをくむ三品家は、現在12代目。天明2(1782)年に茂左衛門が創業した「三品タンス店(現・岩谷堂タンス製作所)」を継ぎ、伝統を今に伝えながら、現代に合った家具を制作している。
平成25年、同社は箪笥製作で出る端材から作った小物ブランド「Iwayado craft」を立ち上げた。“材料を無駄なく大事に使う”という同社の理念と、“もっと気軽に使える岩谷堂箪笥を作りたい”という思いから生まれた取り組みである。その一環として開催したのが、一般客向けの箪笥制作体験イベントだ。
「体験の題材としたのが、引き出しが1つだけ付いた箪笥形の小物入れでした。デスクや棚上に置ける形が大変好評だったため、バリエーションを増やして製品化したのが本品です」と語るのは、13代目で専務の三品綾一郎さん。
「端材を加工して組み立て、塗装し、金具を取り付けるシンプルな作りですが、素材から製造工程に至るまで、岩谷堂箪笥をもとにした本格的な収納箱です」
素材には、一般的な岩谷堂箪笥の引き出し部分に使われる、木目が美しくくるいのない新潟県産の桐の無垢材を使用。木取りした部材に組み手の加工を施し、職人の手で丁寧に組み立てていく。
塗装は「木地仕上げ」と「漆仕上げ」の2種類がある。木地仕上げは何も塗っていない木肌そのままの状態であり、桐本来の端正な表情が魅力。漆仕上げは伝統的な岩谷堂箪笥を代表する塗装で、拭き漆という技法によるものだ。
拭き漆はまず、木地に漆を塗って布で拭き、漆を木地になじませる。その後は湿度のある室に入れ、1~2日ほど乾燥させる。この工程を5回繰り返すことで、艶やかで深みのある漆仕上げになる。
「室の温度が少しでも変化すると、漆の乾き方が変わり、ムラのある仕上がりになってしまいます。漆表面の様子だけでわずかな温度変化も見極め、ムラなく均一に仕上げる技は、熟練の職人にしかできません」(三品さん)
飾り金具は、岩手が誇るもうひとつの伝統的工芸品「南部鉄器」のもの。手打ち金具をもとに成形した鋳型に鉄を流し込んで作られる金具は、本品に岩谷堂箪笥らしい重厚感を与えている。
高い気密性で収納物を保管重ねれば階段箪笥風に
用意したのは、引き出しの数が異なる3サイズ。単品での使用はもちろん、2段3段と重ねれば階段箪笥風の意匠を楽しめる。2つ以上の引き出しが付いている場合、引き出しを押し込むとほかの引き出しが少しせり出すが、これは気密性が高い証。本体と引き出しの隙間をなくすことで湿気や虫が入り込むのを防ぎ、収納物を状態よく保管できるのだ。
「憧れの岩谷堂箪笥を気軽に取り入れられる」と人気の本品。江戸時代から受け継がれる伝統技を感じられる美しい指物である。
【今日の逸品】
小抽出
岩谷堂タンス製作所
7,700円~(消費税込み)