亡くなった方の兄弟や姉妹が相続権を得たケースでは、遺産の取得分を巡って意見が対立することもあるでしょう。また、配偶者や子が相続する場合に比べて、納税額が上がる問題も発生します。
兄弟姉妹が相続人となる可能性がある典型的な例は、子供のいない夫婦や独身の高齢者です。心当たりのある家庭で「生前準備を考えたい」「相続トラブルに巻き込まれそう」といった状況の場合は、相続権の仕組みを押さえて事前準備をしていただきたいと思います。
そこで、この記事では、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た知識や経験に基づき、兄弟姉妹が遺産を相続する場合の相続割合や注意点、トラブルを避ける方法ついてご説明いたします。
目次
亡くなった方の兄弟姉妹は遺産を相続することができる?
兄弟が遺産を相続する場合の割合は?
兄弟での遺産相続トラブルの事例は?
兄弟での遺産相続トラブルにならないためには?
まとめ
亡くなった方の兄弟姉妹は遺産を相続することができる?
そもそも、相続人になれるのは「亡くなった人と一定の親族関係」にある人です。そして、死後実際に相続権を獲得し、遺産の取り分を主張できる人を「法定相続人」と呼びます。ここで結論を述べると、兄弟や姉妹が法定相続人になれるのは、子や孫などの「直系卑属」、父母や祖父母などの「直系尊属」のどちらもいない場合、または、その全員が相続放棄している場合だけです。
法定相続人になれる親族関係の範囲は、本人から見て「配偶者」「直系卑属のうち最も親等の近い人」「直系尊属のうち最も親等の近い人」「兄弟姉妹」までです。上記の範囲のうち、実際に法定相続人になれる人は「配偶者」+「血族の中で最も相続順位が高い人」となります。
なお、血族の相続順位は次のように定められています。
【血族の相続順位】
第1順位:直系卑属(子や孫)
第2順位:直系尊属(父母や祖父母)
第3順位:兄弟姉妹
兄弟姉妹が遺産を相続する場合の割合は?
法定相続人には、それぞれ遺産の取得割合が定められていて、各人の取得割合は血族の相続順位によって変化します。下記表のように、兄弟や姉妹が法定相続人になる際、配偶者がいる場合は「遺産全体の4分の1」、配偶者がいない場合は「遺産全体の100%」となります。
【法定相続人の組み合わせ別】法定相続分の一覧表
法定相続人の組み合わせ | 配偶者 | 子(第1順位) | 直系尊属(第2順位) | 兄弟姉妹(第3順位) |
(1)配偶者のみ | 1分の1 | ― | ― | ― |
(2)配偶者と子 | 2分の1 | 2分の1 | ― | ― |
(3)配偶者と直系尊属 | 3分の2 | ― | 3分の1 | ― |
(4)配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | ― | ― | 4分の1 |
(5)子のみ | ― | 1分の1 | ― | ― |
(6)直系尊属のみ | ― | ― | 1分の1 | ― |
(7)兄弟姉妹のみ | ― | ― | ― | 1分の1 |
なお、同一順位が複数人いる場合、法定相続分を等分するのが原則です。ただし、複数いる兄弟姉妹のうち異父・異母兄弟(姉妹)にあたる人の取得分は、同一の父母を持つ兄弟(姉妹)の半分となります。
注意すべきこととして、被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められません。遺留分とは、相続人が最低限取得できる遺産の割合です。この遺留分は兄弟姉妹には認められないため、遺留分侵害額請求ができません。
兄弟での遺産相続トラブルの事例は?
兄弟や姉妹が法定相続人になるケースで、トラブルに発展することは少なくありません。その原因の多くは、成人してから兄弟姉妹間の交流が途絶えがちになり、お互いの事情への配慮が行き届かなくなってしまっている点にあります。
また、先に亡くなった父母の代で「相続関係を複雑にしてしまう事情」が起きている可能性も、当然否めません。
【相続トラブルの例】
・被相続人の住まいを相続する兄弟や姉妹が「土地も当然自分のもの」だと主張するが、納得できない。
・遺された高齢の妻が、亡夫の兄弟や姉妹に強制されて不利な遺産分割に応じてしまった。
・兄弟姉妹で円満に遺産分割しようとしたところ、突然、亡父が以前の結婚でもうけた子が現れた。
・遺言書に書き直された形跡があり、亡くなった本人がやったものかどうか疑いが生じている。
いったんトラブルが発生してしまうと、専門家が介入しているかどうかに関わらず、解決が長期化してしまう場合がほとんどです。生前の間にトラブルの原因となる事情を把握しているのであれば、早めに対策をとりましょう。
兄弟での遺産相続トラブルにならないためには?
相続トラブル対策の基本は「誰が相続人なのか把握する」「遺産の承継先を法的効力のある方法で指定しておく」の2点です。兄弟や姉妹の間で起こるもめ事に対しては、上記を踏まえて具体的にどのような生前対策がとれるのでしょうか?
推定相続人を把握しておく
ある人物が現時点で死亡したと仮定した場合、法定相続人の地位を得る人を「推定相続人」と呼びます。あらかじめ推定相続人を調べておけば「疎遠になっている兄弟姉妹が相続開始のタイミングで突然現れる」という事態に備えることが可能です。
なお、推定相続人の調査は煩雑になることが多いでしょう。調査の手間だけでなく、戸籍の読み方に苦慮するなど、普段見慣れない書類の確認も必要になるため、専門家に任せるのがベストです。
遺言書を作成する
法定相続分に従うかどうかに関わらず、遺産の承継先を生前の本人が指定する方法が「遺言」です。兄弟姉妹間の事情を考慮して、法定相続分にこだわらない遺産分割を実現したい場合には、遺言書の作成は必須であると言えます。
「家族信託」を活用する
家族信託とは、生前のうちに財産管理を特定の家族(=受託者)に任せ、同時に「定期定額給付」や「死後の財産の帰属先」などを指定する契約です。信託法に基づいて運用されており、銀行などの認可を得た業者が商品として取り扱っています。
家族信託のメリットは、本人が存命かどうかに関わらず、契約終了の条件を満たすまで効力を持つ点です。この性質を利用すれば、生前は自身を「受益者」に指定して信託財産から生活費給付を得つつ、死後は「内縁の配偶者」や「お世話になった人や施設」へと、確実に遺産を受け継いでもらうプランを実現することができます。
まとめ
兄弟姉妹が相続するケースでは、元々親交が途絶えがちになっている状況を背景にトラブル化しやすいのが現状です。トラブルが発生しないように、推定相続人を把握した上で「遺言書を作成する」「家族信託を活用する」などの準備が欠かせません。
また、実際に兄弟姉妹が相続権を得たケースでは、経済的負担の増加に繋がる問題として「相続税の2割加算」があります。いったん起きたトラブルを解決するための手段を駆使する場合でも、法的交渉の進め方と課税関係の両面で専門的な判断が必要です。
生前対策でも、相続開始後の対応でも、早めに弁護士や税理士に相談することをおすすめします。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)