ライターI(以下I):家康が湯殿で侍女のお万(演・松井玲奈)となまめかしいシーンを演じた第19回では、阿部寛さん演じる武田信玄、古田新太さん演じる足利義昭、そして柴田理恵さんが演じる遠江浜松で団子売りを生業にする老婆が登場最終回となりました。
編集者A(以下A):甲府駅前にある武田信玄像を彷彿とさせる「僧体&髭」に徹底的に寄せた阿部さん演じる信玄は、大河ドラマの歴代信玄の中でも、ひときわ濃厚な信玄になりました。
I:「ここはどこ? ここは甲斐なの?」という背景で登場することが多かったですが、それが鮮明に記憶に刻まれているということを考えるとインパクト大でした。その「退場」に寂寥感を覚えます。
A:本当ですね。もっともっと、登場してほしかったですね……。
I:例によってスピンオフで「阿部信玄外伝」をやってほしいと思っているのですよね?
A:もちろんです! 大河デビューを果たした眞栄田郷敦さん演じる四郎勝頼はもちろん、劇中では登場していない嫡男義信や、山県昌景(演・橋本さとし)、穴山梅雪(演・田辺誠一)以外の「武田二十四将」も派手に登場させてほしいですね。
I:そんなことをしたら、それはもう信玄主人公のドラマになってしまうではないですか(笑)。さて、今週は信玄役の阿部寛さん、足利義昭役の古田新太さん、老婆役の柴田理恵さんからコメントが寄せられました。まずは、信玄役の阿部寛さんのコメントをどうぞ。ラストシーンについての言及です。
(信玄は)道半ばにして倒れますが、やれるところまでやり切った圧倒的な生き様を、気負うことなく表現したいと思い、やらせていただきました。
A:劇中、信玄は〈黄泉から見守る〉と四郎勝頼に言い残しましたが、さぞや無念だったと思います。その無念な思いを四郎勝頼は深く受け止めたのだと思います。本編でも言及しましたが、勝頼は武田家史上最大の領土の獲得に成功します。
I:阿部さんのコメントは、四郎勝頼を演じた眞栄田郷敦さんのことにも触れています。
眞栄田さんとは初共演でしたが、彼はすごく気持ちの良い人です。お父さんともお仕事でご一緒したことがあるので、そういう意味でも今回父親役ができることは嬉しく思っていました。勝頼は信玄亡き後も、その遺志を継いでいくわけですが、それが彼の芝居からもにじみ出ていましたし、セリフのキレも良いです。それはお芝居というよりも、眞栄田さん自身が持っている本質的なものだと思います。まっすぐで潔く、武田の精神が乗り移っているかのような方だなと思いました。
I:眞栄田郷敦さんの父・千葉真一さんと阿部寛さんの共演は民放のドラマですが、眞栄田さんの大河デビューの「見届け人」になった喜びを語ってくれました。
A:〈セリフの切れも良いです〉〈眞栄田さん自身が持っている本質的なもの〉というのは、同感ですね。先日も短いセリフで圧倒的な存在感でした(https://serai.jp/hobby/1127919)。しつこいっていわれるかもしれませんが、スピンオフ見たいなぁ。
団子屋の老婆を演じた柴田理恵さんの思い
I:さて、ふだんは眼鏡をかけておられるので、時代劇の衣装ではそれが柴田理恵さんだとにわかにわからなかったのが、浜松の団子売りの老婆です。
A:登場回数、登場時間は短かったですが、存在感は抜群でした。
I:柚子胡椒のようなピリッと万能な雰囲気が漂いましたよね。その柴田さんから寄せられたコメントをどうぞ。
演出の方とは「自分たちの生活の場が戦で領主が変わったりすれば、それはいい気持ちはしないでしょう。この老婆は、実際に浜松にいた人たちの思いそのままでしょうね」というお話をしました。戦乱に巻き込まれ、翻弄されるのは庶民。権力者なんてクソくらえと心の中では思いながらも、右往左往させられるのも庶民です。これは今の世の中も変わらないと思います。
A:コメントも深いですね。戦国時代の庶民の生活、ものの考え方などを記録している史料はほとんどありません。柴田さんのお話を聞いて、きっと根底にある思いは戦国時代も今も変わらないよなぁと思いました。
I:柴田さんのお話は、三方ヶ原合戦で戦場から逃れる時に、脱糞した家康が、それを指摘されると「(これは糞ではなく)焼き味噌じゃ」と言い訳したという伝承についても触れています。
戦乱の世に翻弄されながらも、たくましく生きていく庶民、時には権力者の悪口を言って笑いとばす、明るく強い庶民の代表のような老婆だったと思います。子どもから大人まで「うんちのおもらし」は笑ってしまいますから。
I:私はなんか、老婆を主人公にしたドラマを見たくなりました(笑)。
信長に兵力を使わせた大将軍
A:さて、最後に足利義昭を演じた古田新太さんから寄せられたコメントです。本作の足利義昭は徹頭徹尾バカ殿感丸出しの演出となりましたが、古田さんはどう感じていたのでしょうか。
もう終わりかという感じでした。義昭にはずっとわがままでいて欲しいです。最期も悪態をついていて欲しい。信長にあれほどの兵力を使わせたのだから大したものです。
I:古田さんからのコメントは短いものでしたが〈信長にあれほどの兵力を使わせたのだから大したものです〉というのは鋭く本質をついたものですね。
A:本当ですね。義昭の企み、全国に発した指令、受けた大名、窮地に追いやられる信長、義昭陣営の不協和音、そして信玄の死で瓦解した陣営。そういう場面も演じたかったのではないでしょうか。
I:古田さんのあのキャラで「本格義昭」が登場していたらさらに面白かったかもしれないですね。確実に尺は足りなくなりますが……。そして、古田さんは撮影現場の雰囲気についても言及してくれました。
OJ(岡田准一さん)も久しぶりだったので楽しかった。本人もはしゃいでいました。ムロ(ツヨシ)はどうでもいいです(笑)。酒匂(芳)さんはずっと黙っていたので、不気味な明智の様でした。OJ、久しぶりだったけど、スタジオで会うなりいきなりハグするか。
A:これだけの短いコメントで撮影現場の良好な雰囲気が、さわやかな風のように心の中に吹きそよぎました。雰囲気のいい現場からは、いいドラマが生まれます。今後も期待して良さそうですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり