不動産は、相続財産の中でも高額になることが多いでしょう。不動産が相続財産全体に占める割合が多すぎると、相続税が多額になるにもかかわらず、納税資金がない状態になりかねません。相続の生前対策において、不動産を贈与できれば、相続財産が減少。そのため相続税も圧縮することができます。しかし、財産をもらう人に、多額の贈与税が課税される可能性もあるため、注意が必要です。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、不動産の生前贈与のメリットや注意点ついてご説明いたします。
目次
不動産は生前贈与すると税金対策になる?
不動産の生前贈与を非課税にするには?
不動産を生前贈与するメリットは?
不動産を生前贈与する際の注意点とは?
不動産は生前贈与か相続かどっちが得?
まとめ
不動産は生前贈与すると税金対策になる?
相続財産の中でも不動産は相続評価額が高くなる傾向があるため、相続財産の合計額を押し上げることになり、結果的に相続税も多額になります。
不動産を生前贈与できれば、相続財産の総額が大幅に減少させることが可能です。それに伴い相続税も大きく減少できる効果があります。ただし、不動産をもらった側に多額の贈与税が課税される可能性も。そのため、単純に贈与をするだけでは、贈与税が高額になりすぎて逆に損をしてしまう可能性もあるのです。
不動産を贈与する場合には、非課税の特例等を検討して、効果的な対策が必要になります。
不動産の生前贈与を非課税にするには?
原則的に不動産を贈与することで贈与税が課税されてしまいますが、一定の金額までは非課税になる制度があります。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、親から子、祖父母から孫などに行われる贈与について、年ごとに110万円までの贈与に関して、累計で2,500万円まで贈与税がかからず、相続時にその贈与額を精算するという課税方法です。
2,500万円を超えて贈与した場合には、その超えた金額に一律20%の贈与税が課税されます。
生前に贈与を行ったときは、2,500万円と基礎控除の年間110万の合計金額まで、非課税となります。その代わり贈与者である被相続人が死亡したときは、贈与を受けた金額分を被相続人の他の相続財産と合算して、相続税の計算を行なうことになるため注意が必要です。
夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除
婚姻期間が20年以上のご夫婦の間で、居住用不動産か、居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行なわれた場合に、基礎控除110万円の他に最高2,000万円まで非課税扱いとなる特例です。
住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税制度
父母や祖父母など直系尊属からの贈与で、自分の居住用の家屋の新築、取得または増改築等の対価に充てるための金銭を取得した場合、一定の要件を満たすときは、非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となります。
省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅の場合には500万円までの住宅取得資金の贈与が非課税となります。
不動産を生前贈与するメリットは?
不動産を生前贈与すると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
相続財産の総額が減少する
不動産は相続財産の中で大きなウェイトを占めているので、その財産を生前に贈与することで相続財産総額が大幅に減少するため、相続税の節税効果が見込まれます。
収益不動産の収益を移転できる
収益不動産は相続が発生するまで、収入が入り続けるため、被相続人の相続財産の総額を増やすことになります。収益不動産を贈与すれば、将来稼得する予定であった収入部分を相続人に移すことができるため、相続税の圧縮効果が期待できるでしょう。
自分の意志で相続財産を渡すことができる
生前に贈与をするということは、贈与する方ともらう方が双方合意をした、ということになります。もし、相続が発生して遺言書がなければ、相続人同士で財産を遺産分割しなければならないため、争いごとが起きてしまうかもしれません。生前にご自身の意志で贈与をすることで、相続して欲しい人をこちらから選ぶことが可能になります。
不動産を生前贈与する際の注意点とは?
不動産を生前に贈与する際に、注意しなければならない点を見ていきましょう。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度は一旦選択をしてしまうと、暦年課税制度に戻せないという注意点があります。令和5年度の税制改正によって、精算課税制度も毎年110万円までの贈与は非課税扱いとなりました。しかし、それを超える贈与が行なわれた場合には、相続が発生した際、贈与された財産総額を相続財産に合算する必要があります。そのため選択をするかどうか慎重な判断が必要です。
小規模宅地等の特例が利用できない
小規模宅地等の特例とは、相続が発生した場合、相続財産のうち土地の評価額を最大8割減額が可能になる特例です。不動産の贈与を実行すると、所有権が贈与者に移ることになるため、相続財産に含まれないことになります。
小規模宅地等の特例は、最大8割の評価額を減額が可能です。相続財産の総額が減少することになり、相続税の税率の方が贈与時の税率よりも低くなり、贈与した方が不利になる可能性があります。
贈与税率が高い
贈与税、相続税も累進課税制度と言って、評価額が大きくなればなるほど、税率も高くなるように設定されています。贈与税と相続税では、下記の税率表の通り、贈与税の方が評価額に対して税率が高い設定です。
一般的に不動産は、相続財産の中でも高額になることが多いです。そのため、上述した非課税枠を利用しなければ、贈与税も高額になってしまい、相続まで待った方が税金も安くなる可能性があります。
<特例贈与財産用の贈与税率(特例税率)>
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | ― |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超え | 55% | 640万円 |
<相続税の速算表>
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ― |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
登録免許税等/不動産取得税
不動産取得税とは、土地や建物など不動産を購入する・贈与を受ける際に課税される税金のことです。固定資産税評価額 × 税率(4%)で計算されます(軽減税率、税負担を軽減する特例措置が適用される場合もあります) 。
登録免許税は、不動産の購入時・贈与時に行う登記手続きの際にかかる税金で、土地や建物の固定資産税評価額に税率をかけて税額を計算します。
税率については、土地の移転登記は原則2.0%、建物(住宅用家屋)の新築時の所有権保存登記は原則0.4%、中古住宅などの移転登記は原則2.0%と定められており、いずれも贈与により課税されるため納税が必要です。
不動産は生前贈与か相続かどっちが得?
不動産を生前贈与するかどうかの判断材料として、まずは相続税の総額が基礎控除以下かどうかです。そして、小規模宅地等の特例を使うことで、相続税が課税されるのかどうかも、重要な判断材料になります。
基礎控除は3,000万円 + 法定相続人 × 600万円で計算します。この範囲内であれば、そもそも相続税が課税されません。また、小規模宅地等の特例を使うことで、最大土地の評価額が8割減額されます。そのため、減額後の相続評価額が基礎控除以下になれば、こちらも相続税は課税されません。
相続税が課税されない状態では、生前贈与はあまり得策ではないでしょう。そのため、税金が課税されるかどうか確認をすることが重要です。そして、贈与税の方が相続税よりも税率が高いため、将来発生する相続税の税率と贈与対象の税率の比較も必要となります。
まとめ
不動産は相続財産の中で高額になりがちです。その影響で相続税は課税されるものの、現預金が不足してしまうという状況に陥りかねません。相続税は原則現金一括納付が求められます。そのため、高額な相続税に対して現金不足という事態は避けたいものです。生前に不動産を贈与することで相続税の圧縮効果は期待できますが、贈与税が高くなりすぎてしまっても、対策をする意味が薄れてしまいます。
しっかりと相続シミュレーションを実施して、相続まで保有し続けるか、贈与を選択するのか、相続税に詳しい税理士に相談をした上で、生前対策を実施すると良いでしょう。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)