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ビジネスであれ観光であれ、旅先の宿泊施設の人々と“触れ合う”ことはあっても、“心が通い合う”ということは稀なことのように思います。今日のようにプライベートが重視される世の中になりますと、施設側が利用者との距離をどのように保つかは非常に難しくなっています。遠過ぎれば「親しみのない接遇」と非難を受け、近過ぎれば「プライバシーの侵害」とクレームになるのが宿泊サービス。

そのように難しい業界で、深く利用者の記憶に残る宿泊サービスに出逢えることがあります。それは“心が通い合うサービス”を得られた時ではないでしょうか? 京都の老舗旅館『柊家』が、長い歴史を積み重ねているのは、多くのお客様と心を通い合わせている「証」と見ることができます。

一般のホテルに比べ、利用者との距離が近いと言われる日本旅館。そこでは、どのようにして利用者との距離感を掴み、心が通い合うように努めているのでしょうか? その真髄を柊家の女将・西村明美さんにお聞きしました。

【京の花 歳時記】では、季節の花と和食、京菓子、宿との関わりを一年を通じて追っていきます。第21回は、京都の市街地の中心部に宿を構える老舗旅館『柊家』の花と宿をご紹介します。

◆皐月の出迎えの花

柊家の門をくぐり、水打ちされ清められた石畳の玄関には、五月梅と菖蒲、夏櫨(なつはぜ)が飾られていました。

「“薫風”という季語の通り、五月は新緑の間を吹く風が心地いいですね。初夏がやって来ると、“風を生ける”ということを意識します。夏櫨の枝ぶりを生かして、伸びやかに生けました。紫色の花を咲かせる菖蒲と清楚な白い花を咲かせる五月梅を取り合わせて、涼しげな色合いにしています」と、『柊家』長女の西村 舞さんが教えてくれました。

京都では、5月15日に葵祭が行なわれるため、薄紫の花を咲かせた双葉葵の鉢植えも飾られていた。
古くは“あふひ(逢うひ)“と呼ばれ、神様に逢う植物を意味していたという。

上がり口には、木葉の随菜(こばのずいな)とクレマチスが飾られていました。

「白い小さな花を穂のようにつける木葉の随菜と、蔓もののクレマチスを取り合わせました。木葉の随菜は主役にも脇役にもなるお花として私の好きな花のひとつです。線の姿が美しいクレマチスを添えて少し動きを出しました」と舞さん。

◆初夏を感じさせる青紅葉が美しい、29号室

今回ご紹介いただく部屋は、旧館2階にある29号室です。

「柊家は200年以上の歴史がありますが、年月で味わいを深めた建物をより心地いい空間になるよう時代に合わせて改修しております。29号室もその1つです。昔からある雰囲気を大切にしながら令和3年(2021)に窓周りを改修いたしました。

目前に紅葉が望めるよう、正面のガラスを大きく取って部屋からの景色を楽しんでいただけるようにしました。

庭を望む付書院もありますので、緑が綺麗なこの季節が一番映えるように思います」と女将。

床の間には滝が描かれた軸の前に螺鈿細工が施された香炉台が置かれていた。
花器には、枝物の酸葉(すいば)と白い花を咲かせた芍薬が飾られている。

◆心を通い合わせる女将の接遇

柊家では、お客様が宿泊されている間、どのようなサービスを行なっているのでしょうか? 女将の役割とともにお聞きしました。

客室で挨拶をされる、女将の西村明美さん。

「昔はご紹介のお客様がほとんどで、“女将”とは呼ばれず苗字や名前で呼ばれていたようです。今より親しい感覚での距離感だったんですね。

私が店に出るようになった時には、母の嫁入り前から勤めていた仲居頭がお客様とのお顔つなぎや接し方を細々と教えてくれました。お客様を『他人と思わず親しい大切な方と思い、何を望んでいらっしゃるかを読み取って、言われる前にして差し上げることが大切ですよ』と。

限られた時間で地元京都をより楽しんでいただきたいという思いから、お着きの時にはご観光のできる限りのお手伝いをさせていただいたり、最短距離を表示する地図アプリを使って出かけようとされる方には少しの寄り道でも楽しんでいただける道をご案内したりしております。

お客様には心に残る旅の思い出を残していただきたいので、ご出発のお見送りは大切な時間です。名残惜しい気持ちでお幸せに……という思いがお客様にも伝わるよう、ゆったりとした礼でお見送りしております」

***

ホテルでの宿泊は利用者のプライバシーを尊重し、フロントでのチェックイン・チェックアウト時以外、利用者から求められる時を除いて人との接点が少ないものですが、古くから日本の旅館は主人や女将が中心になって利用者のもてなしに関わります。

「滞在中の衣・食・住すべてに関わる役割は、いわば家庭に置き換えるとかつての母親の役割に似ていると言えるかもしれませんね」と西村明美女将は言います。そうした絶対の安心と信頼がおける存在こそが、滞在する多くの利用者との間に“心のつながりを生み出す”大きな要因であると感じられました。

「柊家」

住所:京都市中京区麩屋町姉小路上ル中白山町
電話番号:075-221-1136
チェックイン:15時
チェックアウト:11時
https://www.hiiragiya.co.jp
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撮影/坂本大貴
構成/末原美裕(京都メディアライン HP:https://kyotomedialine.com Facebook
※本取材は2023年5月8日に行ったものです。

 

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