シスターフッド(女性同士の連帯)を描いた映画やマンガがヒットし、女性同士の友情が注目されている。しかし、現実は、うまくは行かない。これは女性の友情の詳細をライター・沢木文が取材し、紹介する連載だ。
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バター、マヨネーズ、ハム……4月から約5100品目の食品が値上げされると報道されている。2023年2月、厚生労働省は2022年の「毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)」を発表。それによると、物価の影響も考慮した「実質賃金」は前年に比べて0.9%で、2年ぶりのマイナス。物価高に賃金上昇が追い付かない現実を示していた。
「うちは40代で授かった子供の学費が家計を圧迫。切り詰めた生活をしています。それなのに、友人は彼氏ができて贅沢な生活をしているのがうらやましくて」と話すのは、神奈川県に住む郁子さん(60歳)だ。
【これまでの経緯は前編で】
SNSで知り合った友達は、有名企業に勤務するキャリア女性
郁子さんは香織さんとの友人関係を持ちつつ、SNSでの社交も楽しんでいた。特に趣味の刺繍を通じたInstagramで、多くの友人と知り合ったという。
「インスタってすごいんですよ。数回のイイネでいろんな人とつながれて、実際に会ってお話しする友達もできました。お友達はすごいですよ。誰もが知っている大手企業の社員、有名な研究者、コラムニスト、テレビ局員の人もいて、有名大学を卒業したキャリア女性ばかり。そんなすごい人がみんな私をすごいと言ってくれるんです」
郁子さんの趣味としている刺繍の作品を見せてもらうと、素人の域を超えたものだった。聞けば、中学生の頃に漫画『ベルサイユのばら』(池田理代子著)で、フランスの貴族に強烈に憧れたのが刺繍にハマるきっかけ。登場人物たちの生活の断片を知りたくて図書館に行く。そこで刺繍に出合った。
「地元の図書館に、フランスの刺繍の資料があり、あまりのかわいさと美しさに夢中になって、自己流で再現しているうちに、歴史や貴族の生活よりも刺繍が面白くなっちゃったんです。ハンガリー、イタリア、ノルウェー、エジプト、中国……“どうやって縫っているんだろう”と研究して再現し続けるうちに、自分の刺繍をするように」
短大を出て就職してからは、海外の美術館にも出かけたが、その専門家になるとか、作品を売るとか、そういう気持ちになったことはない。
「私なんかには絶対に無理。それに人前に出ると緊張しちゃう。趣味の一環でいいんです。でも刺繍を通じて普通に生活していたら絶対に会えない人と友達になれたのは嬉しかったです」
日本の社会には、目に見えないレイヤー(階層)があることは多くの人が感じていることだろう。刺繍はそのレイヤーを融解したが、郁子さんはどこか緊張しながらキャリア女性である彼女たちと付き合っていた。
「みんなめちゃくちゃ頭がよくて、会話の展開が早すぎる。言葉も難しくてわからないんです。だから刺繍のお友達と会った後に、香織さんと会うと安心する。スーパーの特売商品とか、子供のこととかね。刺繍の友達はキャリア女性が多く、子供がいない人も多い。そうなると、子供の話はできないじゃないですか。やはりいちばんの関心事は子供なので」
【娘を大学に入れ、豹変する女友達……次のページに続きます】