ライターI(以下I):山田孝之さんの大河ドラマ初登場は2000年の『葵 徳川三代』になります。撮影時の山田さんは16歳。二代将軍徳川秀忠の嫡男竹千代役を演じました。
編集者A(以下A):山田さんが演じた竹千代は後に三代将軍家光になるのですが、この時の役どころは、大奥に忍び込んで母親であるお江の侍女をはらませてしまうというものでした。以来、23年。満を持して大河ドラマに戻って来てくれました。演じるのは服部半蔵。伊賀ものの忍者軍団を仕切る家康側近です。
I:徳川家康十六将のひとりに選ばれる猛将でもあります。
A:第5回では、これも家康側近となる本多正信(演・松山ケンイチ)との絡みが秀逸でした。ともに手練れの俳優であるふたりのやり取りは、将来「大河の名シーン」に数えられるのではないかと思うほど、骨太のシーンでした。
I:ふたりとも「表情で語る」ことのできる方ですし、間合いや台詞のトーンなど、うならされる場面が多かったですね。
A:手練れの俳優のやり取りには変化球は必要ないという印象を受けました。直球ど真ん中でずっと見ていたいやり取りでした。
I:その山田孝之さんからコメントが寄せられました。
第5回では、亡き父から「忍びはやるな」と言われていたことも明かされましたが、半蔵は、そもそも出来ることなら争いを避けて生きたい人。ただ、時代的にも避けられない争いも多いし、自分は伊賀にうまれた宿命もある。それは理解しつつも、やはり争いたくない……という悩みや葛藤を抱えていたのかなと思います。
一方で、幼い頃見ていた忍びとして活躍する父の姿に、少なからず誇りや憧れも持っていただろうと想像しています。いざ任務につくとなれば、ほんの僅かですが、憧れていた父と同じ働きができる喜びもあったのかなと思います。
でも、結果的に父は自分に忍びを勧めなかった。父はさまざまな出来事に巻き込まれ、もしかしたら甲賀との対立の中で亡くなったのかもしれない。その上での言葉だったことを考えると、やはり引き受けない方が良いのかな……と、正信の誘いに対して逡巡する半蔵の思いを解釈しました。脚本にあるセリフをベースにしながら、描かれていない半蔵の過去や父のことを想像で足して、人物像を組み立てていきました。史実が本当なのかは誰にも分かりませんし、今作においては、僕に与えられた服部半蔵をどう生きるかということだけだと思っています
A:ちょっと長めにコメントを紹介しましたが、特に後半に注目いただきたいと思います。脚本をベースにしつつ、ドラマでは描かれない過去に想像力を膨らませて人物像を作っていくというのです。
I:単に与えられた場面や台詞をこなすだけではなく、自分なりの服部半蔵を演じていく。なんだかこのコメントだけでも感極まりますね。
A:服部半蔵は今後も節目節目で重要な役割で登場すると思います。私たちは山田孝之さんのこのコメントを胸に刻みんで、ひとりの俳優がその役をどう演じたのか、見逃さないよう、見守っていきたいと思います。
I:山田さんのコメントはまだ続きますが、ひときわ印象に残った個所を最後にかみしめてほしいと思います。
これから1年間続く物語の中で、半蔵の感情が大きく揺れ動いたり、崩れるほど感情が高ぶったり。もしくはしっかり相手の目を見られるほど信頼できる関係性を正信や家康たちと築けたら……。そんなエピソードが出てきたらいいなと、僕自身も楽しみにしています
A:山田孝之さんはいつか大河の主演を担ってほしい俳優のひとりです。半蔵の感情が揺れ動くシーン。いったいどんな場面になるのか、今は想像がつきませんが、心してその場面を待ちたいと思います。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり