ライターI(以下I):『軍師官兵衛』(2014年)で主演を担った岡田准一さんは、『関ケ原』(2017年)、『燃えよ剣』(2021年)でも主役を演じた「令和の時代劇スター」です。
編集者A(以下A):『どうする家康』はまだ第4回を終えたばかりですが、私たちの世代が1983年の『徳川家康』で信長を演じた役所広司さんに熱狂したように、今ドラマを見ている少年たちにとって、岡田准一さん演じる信長は強烈なインパクトを与えているのではないでしょうか。
I:眼力、貫禄、その佇まい……、そして元康との関係性を考えると、「今後の展開にもしやサプライズもあるかも!」と注目大なのですが、そうした中で、岡田准一さんのコメントが寄せられました。それによると、信長と竹千代(演・川口和空)、元康(演・松本潤)との総合格闘技ばりの相撲の場面、岡田准一さんが、演技指導を任せられたそうです。まずは相撲の場面についての岡田さんのコメントをどうぞ。
子どもの頃から、肉体的にも精神的にも家康にトラウマを植え付けるのが信長なので、その象徴的なシーンですよね。このシーンは、演出側から振り付けをお願いされたので、大河ドラマで動きを付けるなんて考えてもみませんでしたがお引き受けしました。台本にも「総合格闘技のように」と書かれていて、新たなチャレンジという意味でも担当させていただきました
A:岡田さんがインストラクターの資格を所持するほどの格闘技に傾倒しているのは知られていますが、まさかあのシーンの演技指導をしていたとは! リアルな場面だったのもこれで納得です。
I:かなり本格的な指導だったようですよ。岡田さんのコメントの続きをどうぞ。
子役の川口和空くんと松本潤くん、それぞれかなり特訓してもらいました。もちろん安全面には気を付けていましたが、特に川口くんに対して、あんなにハードな動きでいいのかということも不安に思っていて。でも、あのシーンが終わった後、川口くんは「アクションが楽しかった、アクションが出来る役者になりたい」と言ってくれたので、結果的には良かったなと思っています
自宅を訪れてのプライベート演技指導
A:信長と竹千代、信長と元康の相撲というか格闘シーンは、白熱した展開でしたが、そういう背景があったんですね。しかし、いい話ですね。子役の川口和空くんと真摯に向き合った真剣勝負。鬼気迫る場面の背景が知れたのもうれしいですし、あのシーンが、未来のアクションスター誕生のきっかけになったとしたらうれしいですね。
I:子役の川口和空くんにとってこのシーンは大きな財産になりましたね。きっと近い将来、大河ドラマでアクションもこなせる主要キャストとしてかえって来るかもしれないですね。
A:大河ドラマでは、先輩俳優が後輩のことを気にかけて、演じやすいようにしていくという伝統があるのでしょう。 前年の『鎌倉殿の13人』で北条義時を演じた小栗旬さんも子役の時に出演した『秀吉』(1996年)で主演の竹中直人さんが気にかけていろいろ話しかけてくれたことがありがたかったという話をしていました。
I:奇遇ではありますが、今回の岡田さんのコメントにも竹中直人さんの名前が登場しています。
僕が主演を経験させていただいた「軍師官兵衛」では、大河ドラマ経験者の先輩として、竹中直人さんが近くで支えてくださいました。竹中さんには本当に感謝しかないんです。
なので今回は、大河の先輩として、微力ながら松本くんを支えられたらということは思っています。大河だから、時代劇だからと小さく収めようとせずに、自由にやることの大切さも、竹中さんから教えていただけたことです。収録が始まってしばらくは、大河ドラマ出演自体が初めてという松本くんに対して、自由に芝居する部分を見せようというのも意識しています
A:岡田さんが黒田官兵衛を演じた『軍師官兵衛』で竹中直人さんは豊臣秀吉を演じました。1996年の『秀吉』以来18年ぶりに同じ秀吉役で大河ドラマに戻ってきたことが話題になった時です。竹中直人さんから岡田准一さんにつながれた「大河俳優の矜持」が今また松本潤さんにつながれようとしている。岡田さんは具体的なエピソードも添えてくれました。
松本くんは、相撲シーンを練習したいということで、うちまで来て練習したことがありました。 僕が振りを付けるからこそ、より完璧にやりたいというのも言ってくれていました。
このシーンや、僕に限らずですが、「やりにくい部分はないか」なども含めて、松本くんは役者の皆さんともよくお話をされているんですよね。主演として申し分ない気遣い、細やかさ、丁寧さがあって頼りになりますし、僕自身も芝居においてぶつかりやすいです
I:長丁場の大河ドラマの現場で主演を務めるというのは相当な負荷がかかると推察します。主演を経験したことのある先輩俳優の存在は心強いと思います。撮影オフの時に自宅を訪ねての格闘技指導。なんだか胸が熱くなります。
A:どんどん良いドラマになっていきそうな予感がしますね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり