梅とメジロ

ニュースや天気予報では「暦の上では春を迎えました」といった言葉を耳にします。まだ厳しい寒さが続いている中で、そんな言葉を聞いても、あまり実感が湧かないものです。

しかし、自然は春を敏感に感じ取っているようで、日足は伸び、木々も芽吹いて、梅の花も咲き始めます。そうした変化から、春の気配を感じられるのではないでしょうか?

古来より日本人は二十四節気を定め、季節を区分してきました。一年を24に分けることで、月日の移ろいを感じ取ってきたのです。自然に触れる機会が減り、季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、二十四節気を軸にすることで、季節を愛でる機会を持つことができるのではないでしょうか。

さて今回は、旧暦の最初の節気「立春(りっしゅん)」について下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。

立春とは?

2026年の「立春」は、【2月4日(水)】にあたります。「春が立つ」と書くように、春が始まる日とされます。立夏、立秋、立冬とともに四季の始まりを意味する「四立(しりゅう)」の一つで、暦の上ではこの日から立夏の前日までが「春」となります。

二十四節気の第一番目とされる立春は、旧暦上では一年の始まりと考えられていました。現在でも正月に「新春」や「迎春」などの表現を使います。これは旧暦では、立春から新年が始まり、正月は立春とほぼ重なっていたからです。

旧暦の頃の元日は、立春に近い新月の日とされていたため、年が明けるとすぐ立春でした。時には元日となるより早く立春を迎えることもあり、その場合を「年内立春」と呼んだとされます。

また、立春後から春分までの間に、初めて吹く南向きの強い風は「春一番(はるいちばん)」です。冬型の気圧配置が崩れ、温帯低気圧が発達した時に吹くため、春の訪れを告げる風とされます。元々は、漁業者らが海難防止のために、冬とは風向きの異なる強風を呼ぶ名でした。それが1950年代後半よりマスコミで使用され、「春一番」という名称が一般化したとされています。

七十二候で感じる立春の息吹

立春の期間は、例年【2月4日ごろ〜18日ごろ】。七十二候ではこの時期をさらに三つに分け、自然の細やかな変化を映し出しています。

初候(2月4日〜8日頃)|東風解凍(はるかぜこおりをとく)

春風が吹きはじめ、川や地面の氷が溶け出す頃。

次候(2月9日〜13日頃)|黄鶯睍睆(こうおうけんかんす)

鶯(うぐいす)が山里で美しい声を響かせ、春の訪れを告げる時季。

末候(2月14日〜18日頃)|魚上氷(うおこおりをいずる)

凍った水面の下で冬を越した魚たちが、氷の割れ目から姿を現す頃。

立春を感じる和歌|言葉に映る立春の情景 

皆さま、こんにちは。絵本作家のまつしたゆうりです。今回は旧暦の新年にぴったりな、この歌をご紹介します。

新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事(よごと) 
大伴家持(おおとものやかもち)『万葉集』4516

《訳》新しい年の初めで、初春の、今日降る雪のように、たくさん降り積もれ、いい事よ!

《詠み人》この歌は、『万葉集』を編纂したと言われている大伴家持が詠んだ歌です。貴族で歌人でもある彼は、心の機微を自然に喩えた歌をたくさん残しています。

なんと清々しく、晴れやかな言葉で織られた歌でしょう!

絵/まつしたゆうり

この歌に触れるたび、新年のパリッとした、おろしたてのシャツに袖を通すときのような、キリリとしながらも嬉しさに溢れた心地になります。

さぞいい気分で詠んだ歌なんだろうな、と思うかもしれませんが、歴史的背景を重ねて見てみると、そうでもなかったことが見えてきます。

家持の生まれた大伴家は、天孫降臨の頃から天皇家に仕える由緒ある武門の家柄。けれどこの歌を詠んだ頃には、藤原氏が台頭してきて政治や天皇家に深く関わり始め、大伴家の立場は非常に危うくなっていました。

大切な仲間や同族たちが処罰され、失脚していくなか「どうやったら大伴家を後の時代に継いでいけるか」と葛藤した歌も残っています。そんな時に、どうしてこんな目出度い内容の歌を詠んだのか。気になりますよね。

『万葉集』には「予祝」を詠んだとされる歌がいくつもあります。それは「あらかじめいい未来を『現実のこと』として歌に詠むことで、その現実が叶う」と思われていたからだそう。現代風に言うと「引き寄せの法則」みたいなことなのかもしれませんが、「叶ってほしい理想的な未来」を言葉にすることは、当時もとても大事にされていました。

つい日常の中で今の不満を、何気なく無意識に、口にしてしまうことがあるかと思います。でもその時の心地は、決していいものではないですよね。

人は自分の発した言葉の主語を認識していないのだそう。なので誰かに向けてネガティブな言葉を発したつもりでも、それはすべて自分に返ってきてしまうそうなのです。

自分の言葉を一番近くで聞いているのは自分。そうであれば、できるだけ心地いい言葉を発していきたいと思いませんか?

未来はまだ来ていないのだから、それを不満でいっぱいにするか、楽しさでいっぱいにするかは自分次第。いくらでも楽しく想像して、タダで幸せな気分になれるなら、予祝しまくるのって最高の遊びなんじゃないかと思うのです。

現実逃避で罪悪感を抱えながらするのはオススメしませんが、幸せな心地で過ごした方が身体も不調になりにくいはず。快適な身体で何かをする方が、上手くいくことも多いと思うのです。

まずは不快&不機嫌でいる遊びをやめて、ご機嫌で過ごす時間をデフォルトにして、ぜひ新しい年をお迎えくださいませ!

「立春を感じる和歌」文/まつしたゆうり

立春に行われる行事|一年の無事を願う春の祭りごと

立春は、旧暦では一年の始まりとされてきた特別な節目。春の兆しを感じながら、無病息災や商売繁盛を願う行事が各地で行われます。

初午(はつうま)|稲荷信仰と春の到来を祝う祭礼

2月の初めに訪れる午(うま)の日は「初午」呼ばれ、稲荷神社で祭礼が行われます。これは、伏見稲荷大社(京都市)の御祭神である稲荷大神様が稲荷山に降臨した日とされることにちなみます。

五穀豊穣(ごこくほうじょう)や商売繁盛を願い、伏見稲荷大社をはじめ全国の稲荷社では多くの参拝客で賑わいます。

2026年の初午は【2月1日(日)】にあたります。

立春大吉(りっしゅんだいきち)|禅寺に伝わる厄除けのお札

禅宗のお寺などでは「立春大吉(りっしゅんだいきち)」と書かれた札を、家の入口に貼る風習があります。文字が左右対称であることから「魔除け」になるとされ、一年の始まりに家に入ってきた鬼を追い出すのだとか。

家の入口や、勉強部屋など大切な部屋の入口に、目より高い位置に貼り付けるのがいいとされています。

立春に見頃を迎える花|寒さに耐えて咲く早春の彩り

春の訪れを告げるように咲く花々は、冬の終わりを教えてくれます。

梅は「百花のさきがけ」といわれ、春一番に咲く花です。厳しい寒さの中で香り高く咲き、古来より和歌や絵画に数多く登場してきました。

白梅や紅梅など品種も豊富で、京都の北野天満宮や東京の湯島天神など、梅の名所には早春から多くの参拝客が訪れます。

立春の味覚|旬を味わい、季節を身体に取り込む

立春の頃には、寒さの中でうまみを蓄えた食材が揃います。体をゆっくり目覚めさせ、春を迎える準備として、旬の恵みを食卓に取り入れてみませんか。

野菜|蕗の薹(ふきのとう)

蕗の薹は、雪解けとともに顔を出す春一番の山菜。そのほろ苦い風味は、冬にこわばった身体をゆるめ、内側から目覚めさせてくれるようです。

アク抜きしてから、天ぷらや蕗味噌(ふきみそ)にすれば、春の訪れを味覚でも感じられます。

蕗の薹

魚|白魚(しらうお)

白魚は、淡水と海水が混じり合う沿岸や汽水域に生息し、春先になると河口で産卵します。この時期に行われる四つ手網や刺し網による白魚漁は、早春の風物詩として知られています。

身は透き通るように白く、甘味とほのかな苦味が絶妙に調和。握り寿司のネタとしても人気があり、旬ならではの繊細な味わいが楽しめます。

白魚の軍艦巻き

京菓子|早春

立春の頃、茶席に並ぶのは「早春」と呼ばれる梅の形を模した生菓子です。外郎(ういろう)餅生地で白餡を包み込み、竹へらで細工をして、五弁の花弁が形作られます。

薄桃色の柔らかな花弁の色合いから、春の到来を感じます。

「早春」

まとめ

春の始まりを告げる「立春」。それは、旧暦上では一年の始まりの時期でもあります。まだまだ寒さは厳しいですが、葉っぱが落ち切った枝の先に小さなつぼみを見つけることができれば、小さな春の兆しを感じられるはずです。

外を歩く際にいつもより少し意識して周りの草木に目を向ければ、季節の移ろいを発見できるのではないでしょうか。

監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com 
インスタグラム:https://instagram.com/housendo.kyoto
構成/菅原喜子(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook

 

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