取材・文/大津恭子
定年退職を間近に控えた世代、リタイア後の新生活を始めた世代の夫婦が直面する、環境や生活リズムの変化。ライフスタイルが変わると、どんな問題が起こるのか。また、夫婦の距離感やバランスをどのように保ち、過ごしているのかを語ってもらいます。
[お話を伺った人]
西野耀太さん(仮名・52歳) 繊維会社に勤務していたが、50歳で関連会社に出向。現在、早期退職を検討中。
西野奈々子さん(仮名・49歳) デザイン会社勤務。個人で仕事を受けることもあり、自宅で仕事をできる環境にしてある。
役職定年と新型コロナのダブルパンチで存在感を失った
定年の前に待っている役職定年は、50代に設定されている企業が多い。
西野耀太さん(以下、西野さん)は技術研究職として入社以来30年弱、本社の開発部門にいたが、1年前に役職定年となった。現在は取引先の子会社に勤務している。
出向先はECサイトの運営会社。社員は皆若くて礼儀正しく、人間関係にとりたたて不満はないが、新たな仕事場の雰囲気にはいまだ馴染めないそうだ。
「サイト運営には興味があったので出向を受け入れたんですが、メインで扱っている商品が女性用化粧品。私の仕事は人事関係なんですが、まあ正直、モチベーションはダダ下がりでした」
総勢8名の会社で、社員の多くは営業や商品管理で出払っているため、駅前の雑居ビルにある小さなオフィスには、日中ほとんど人がいない状況だという。
「目下の悩みは人材が定着しないこと。ただでさえ人手不足なのに、人の入れ替わりサイクルが短いんですよ。この2年で、もう3人辞めてしまいました。半分の人が短期間で入れ替わっているわけですから、採用の仕組み作りには四苦八苦しています」
その採用についても、西野さんに決定権はない。女性の社外取締役社長が直接面談をするため、面接日の調整をするのが仕事のようなものだ。
「前職に未練があるわけではありません。でも、仕事のルールや分野がまったく異なるので、同じやり方が通用しないのがつらいところですね。以前は、前職で培った知識や知恵が何かしら役に立つだろうと思っていましたけど、まったくの畑違いなので難しいです。妻は『新しい環境で新たにスタートを切ると思えばいいじゃない』と言ってくれましたけど、そんなに単純なものではないですよ。いよいよ決断の時が来たのかもしれません」
西野さんは、早期退職を視野に入れながら、定年までの間、自分には何ができるのかと自問自答する日々を送っているという。
「今のままじゃ、存在感ゼロですから」
【焦りと諦めの狭間で沈みがちな気持ちを変えたサーフィン。次ページに続きます】