取材・文/大津恭子

定年退職を間近に控えた世代、リタイア後の新生活を始めた世代の夫婦が直面する、環境や生活リズムの変化。ライフスタイルが変わると、どんな問題が起こるのか。また、夫婦の距離感やバランスをどのように保ち、過ごしているのかを語ってもらいます。

~その1~はコチラ】

[お話を伺った人]

西野耀太さん(仮名・52歳) 繊維会社に勤務していたが、50歳で関連会社に出向。現在、早期退職を検討中。

西野奈々子さん(仮名・49歳) デザイン会社勤務。個人で仕事を受けることもあり、自宅で仕事をできる環境にしてある。

海で黄昏れる夫と、心配しつつも再起を願う妻

コロナ禍の影響でリモートワークになったものの、夫は早朝からサーフィン通い。妻の奈々子さんは「あの人は現実逃避をしているだけ」と呆れている。

奈々子さんは都心のデザイン事務所に勤務しているが、現在自宅でリモートワークを続けている。ウェブデザイナーという職業柄、数か月間にわたって手がける案件が多く、コロナ禍においても仕事量が減ることはなかったという。

「ウェブデザインは9時5時できっちり終わる仕事ではありませんので、もともと自宅で仕上げたり調整したりしていました。通勤の往復2時間分仕事ができるから、今後も自宅で仕事をしたいくらいです」

しかし、夫婦共に在宅ワークとなると、夫の存在が気になって集中できない。さらに、緊急事態宣言下でもサーフィンに出向く夫にイライラが募ってきた。

「サーフィンを再開した当初は、じつは内心ホッとしていたんですよ。出向が決まってからの落ち込みようがすごかったので。やっぱり50歳で役職定年組になってしまったことが堪えていたんでしょうね。最初は愚痴や文句ばかりだったんですが、そのうち強がりすら言わなくなって、表情までなくなってしまって……心療内科に行くのを勧めたくらいです。でも、週末に海に行くようになって徐々に落ち着いてきて、今では昔の主人に戻っています。サーフィン後に浜辺のゴミ拾いをしたりする良い仲間もできたみたいで、ひと安心していたんですが……」

しかし、緊急事態宣言下でも自粛するどころか堂々と海に出かけていく姿には、大きな疑問符がついたという。奈々子さんの鼻息は荒い。

「もちろん喧嘩しましたよ。『近所の目もあるし、ちゃんと自粛してよ!』って。でも決まって『勤務時間外の運動だから問題ない。早朝だし屋外だし、3密は回避してる。ランニングはよくてサーフィンがダメな意味がわからない』って言うんですよ。その通りかもしれませんけど、だからって、いい年したサラリーマンが平日の朝サーフィンしますか? 玄関やお風呂場が砂だらけになるのも迷惑。結局、不安で居場所がないから、海に逃げているんですよ」

思わぬ自粛生活で、“リタイア後の生活” を先行体験。次ページに続きます

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