焦りと諦めの狭間で沈みがちな気持ちを変えたサーフィン
焦りと諦めの狭間で沈みがちな気持ちを変えたのは、正月休みにテレビに映ったハワイの海の景色だった。
「あれを見て閃いたんですよ。『そうだ、サーフィンしよう!』って。私は20代半ばまで熱心なサーファーだったんです。だから、会社は都心にあるのに湘南に家を建てたほど。結婚してすっかりやめてしまったんですけど、リタイアしたらまたやろうと思っていました。まだ現役をリタイアしたわけじゃないけど、昔みたいに残業があるわけでもないし、時間はたっぷりできました。今始めなかったらいつやるの? 今でしょ! みたいな」(笑)
それからというもの、週末になると、筋トレを兼ねてサーフボードを抱え、自宅から20分ほどの浜に歩いて通ったそうだ。
オンとオフのメリハリがついたためか、ひと月もすると心身共に調子が良くなり、つまらない雑用仕事も淡々とこなせるようになったという。
「気持ちがおおらかになったというか、開き直ったというか……。自分への期待値を下げればいいんだ、って気付いたんですよ。そうしたら、『まあ、このままでもいいかもな』って、肩の荷が下りたような気がしたんです。サーフィンに出かけた日は体の疲れが半端じゃないので、夜は爆睡です。そうなると、朝飯もうまい! “ワークライフバランスが取れる”ってこういうことか! と思いましたよ」
春になり、新型コロナウィルスが猛威を振るい始めた時にも、西野さんのライフスタイルは変わらなかった。リモートワークを余儀なくされたが、むしろ好都合だ。
「どのみち、定例会議の日以外、会社の誰からも連絡なんて来ません。それに、採用はしばらく見合わせることになったので、私はただ自宅待機をしているようなものなんですよ。余計な自己主張をせず、存在感を消しています」
やがて自宅でヒマを持て余すようになり、4月に入ってからは平日も休日も関係なく早朝浜に向かい、サーフィンをしているのだという。
そんな西野さんを苦々しく思っているのが、妻の奈々子さんだ。
「夫は現実逃避をしているだけ」とかなりの辛口評価を下す。
【~その2~に続きます。】
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。