「人の言葉は重要だ」「人の話を聞かなければならない」という認識が、暗黙のうちに強く植え付けられていることがあります。しかし、そう思いすぎることで、真面目な人、気持ちの優しい人ほど、人の言葉に振り回されてしまい、生きづらさを抱えてしまいます。
そこで、心理カウンセラーのみき いちたろう先生の著書『プロカウンセラーが教える 他人の言葉をスルーする技術』から、他人の言葉をスルーし、言葉に振り回されない方法をご紹介します。
文/みき いちたろう
「人間とは立派なものだ。言葉とは素晴らしいものだ」と思っていては、言葉をスルーすることは容易ではありません。人間やその「言葉」の実態がわかるようになると、いかにしてスルーすればよいのかも自然とつかめてきます。
「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」と言いますが、振り回される側の私たちに潜む振り回されやすさのメカニズムを見ていきたいと思います。
最初に、言葉に振り回されやすい人に特徴的なメンタリティを確認しながら、その背景にあるものをさらに深堀りしていきます。あなたにもそのメカニズムが当てはまるかもしれません。自分に当てはまる部分がないかをチェックしながらお読みください。
他人に自分を見抜かれる不安
言葉に振り回されやすい人に特徴的なメンタリティとしてよく見られるのが、「他人から自分を見抜かれるのでは」という不安です。自分よりも相手が自分のことや問題点を知っているのでは、と感じるのです。
とくに、自信がありそうな人、目上の人、地位のある人には自分が見抜かれてしまうという恐れを持ちがちです。そのために、自分にまつわる言葉を過度に重く捉えて真に受けてしまい、振り回されてしまうのです。
その背景には、自信のなさや、自己理解・自己一致感の欠如があります。自分自身のことなのによくわかっていない。わかっていたとしても確信が持てないのです。
ある程度の自己理解があれば、相手が言う自分についての発言をスルーしたり、それは的を射ていないと跳ね返すことができます。しかし、今ひとつ確信が持てないために、つい耳を傾けて、「他人の言葉のほうが正しいのでは?」
と思ってしまうのです。
自分だけが知らない盲点があり、「他人から指摘されるかも」という不安
物事に関する知識や認識にまつわる不安もあります。自分が知っている知識や情報について、もしかしたら間違っているかもしれない、自分が知らない盲点があるかもしれないといった不安を常に抱えています。
自分だけが見落としていることを他人に指摘されるかもしれないという恐れ、自信のなさがあります。客観的には十分すぎるくらいに知識や情報を持っていても自信がありません。
自信のなさを振り払うために強く言い切ろうとすると、力みすぎて言い切りすぎを指摘されてしまう。かといって、気弱にしていても結局相手に押し切られてしまう。自然体というものがよくわからないのです。
たとえば、仕事の客先で説明をする自信がない。会議や発表をしていても、なにか自分だけ間違ったことを発言しているような気がしてしまう。梯子を外されるような感覚がある。その結果、他人からちょっと疑問を挟まれ、指摘や質問をされると妙に振り回されてしまい、自信を持って応答することができなくなります。
不意打ちされる不安
言葉に振り回されやすい人は「不意打ちされる怖さ」も持っています。不意打ちというのは、嫌なことをズバッと指摘されてしまうとか、思わぬことを伝えられるという怖さのことです。夜道を1人で歩いているかのように、他人の言葉が不意に飛んでこないかと余計に身構えてしまう。その結果、なんでもない言葉まで真に受けてしまう。
他人の存在が妙に大きく怖く感じられてしまって、落ち着いていればなんでもないことでも振り回されやすくなります。
独りよがりな人間と思われたくない「見捨てられ不安」
他人の言葉に振り回されないためには自分の基準で言葉を取捨選択する必要があります。しかし、その際に、妨げとなるのが「独りよがり」になってしまうことへの恐れです。他人の言葉を自分の判断でスルーすると、大切な真実を逃してしまうのではないか? その結果、ひどい目に合うのではないか? という恐れを感じています。
そして、相手がそんな独りよがりな自分に失望して嫌いになって見捨てられてしまうのではないか? と心配になってしまうのです。
「見捨てられ不安」というのは、心の悩みの要素として最も多いもののひとつです。見捨てられ不安があると、幼い子が親を求めるがごとく相手の言葉に執着してしまい、言葉をスルーできなくなってしまうのです。
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『プロカウンセラーが教える 他人の言葉をスルーする技術』(みき いちたろう 著)
フォレスト出版
みき いちたろう
心理カウンセラー、公認心理師。大阪生まれ。大阪大学文学部卒、大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。在学時よりカウンセリングに携わる。大学院修了後、大手電機メーカー、応用社会心理学研究所、大阪心理教育センターを経て、ブリーフセラピー・カウンセリング・センター(B.C.C.)を設立。トラウマ、愛着障害などのケアを専門にカウンセリングを提供している。