取材・文/沢木文
結婚25年の銀婚式を迎える頃に、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻と突然の別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。
最初に出会った時は、美しく賢い「高嶺の花」
お話を伺った、重明さん(仮名・65歳・会社経営)の妻に異変が起きたのは1年前だった。
「妻は3歳年下なんですが、1年前から物忘れが激しくなり、若年性アルツハイマーだと診断されました。その後、あれよあれよという間に、何もかも忘れるようになってしまった。私も仕事があるし、子どもたちも家庭がある。今は施設に入っていますが、私が面会に行っても『だれですか?』って言うんです。そんなに私のことを忘れたかったのかと、悲しくなります」
重明さんは良家の子息が行くことで知られる、都心にある私立大学の付属小学校から大学まで進学している。
「卒業後は、親のコネで大手商社に5年間勤務し、その後親からの事業を引き継ぎました。長男だしそんなものだと思っていた。妻とは仕事で知り合ったんですが、今でいうバリキャリっていうんでしょうか。帰国子女で英語が堪能で、赤い口紅とハイヒールが今でも目に焼き付いています。ディスコに行けば外国人の友達がたくさんいて、ホントに輝いていた」
今まで、女性の方から寄ってくるほどモテた重明さんに、一瞥もくれないほどの高嶺の花だった。
「官僚と付き合っているとか、どこかの王族からプロポーズされたとかいろんな噂があったけれど、実際は両親が12歳の時に離婚。妻には兄弟もおらず、両親はそれぞれ別の人と再婚しています。妻は父方の祖父母に育てられており、家庭の味を知らない人だった。ものすごく寂しがり屋で、それを埋めるように勉強や仕事、スポーツに打ち込んでいたんだと思う」
【妻が飢えていたのは、愛情だった。次ページに続きます】