妻が飢えていたのは、愛情だった。親を知らず、相手を傷つけ愛を確認する
重明さんの妻は、裕福な祖父母宅に暮らしていた。
「彼女は、ウチとはまた別のエリアの由緒正しい街に巨大な日本家屋があり、そこに住んでいた。いろんな噂がある人で、とにかく、一緒にいる時間を多く持とうと思って、なるべく接触のチャンスを増やした。その結果、口説き落として付き合うことになったんだよね。まあ、なんというか激しい女性でね。僕を試すようなことばかりするんだ」
若き日の妻は、レストランの約束をすっぽかす、パーティで重明さんを無視し別の男性と親し気にする、高価なものを買えとねだられ、いざ買うと「いらない」と突き返してくる……。
「僕の周囲には、従順な女の子ばっかりだったから、彼女のそういう行動が新鮮だった。もちろん激怒して別れたことが何度もある。別の女性と付き合っても、また彼女がよくなってしまう。あれだけ頭の回転が早くて、激しい人はいないからね。それに、僕に対してかなりひどいことをしているんだけど、一番やってはいけない浮気はしていない。すごく一途な人なんだ」
最初に出会ったのは、重明さんが25歳のとき。それから1年かけて交際に漕ぎつけた。4年後、重明さんが勤務していた商社を辞め、親の事業を継ぐ30歳のタイミングで結婚する。
「僕の両親は『カタオヤの家の娘など許さない』と、大反対。結婚させたかった人もいたみたいで、半ば駆け落ちのように入籍しました。当時としては珍しく、披露宴もしなかった……というより、彼女の両親とは疎遠だし、彼女の親代わりの祖父母とも折り合いが悪く、披露宴ができなかった。その時に『ごめんなさいね、こんなに振り回しちゃって』と彼女が泣きながら言った姿が、かわいらしくていじらしくて。改めて、この女性を守っていこうと思ったんだけどね」
【「結婚したら家庭に入って欲しい」それが大きな間違いだったかもしれない……~その2~に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。