取材・文/沢木文

写真はイメージです

結婚当初は他人だった。しかし、25年の銀婚式を迎える頃に、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、死や離婚など、妻と突然の別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。

最愛の妻との出会いは、僕の人生を変えるものだった

お話を伺った、康夫さん(仮名・62歳・無職)の妻が、亡くなったのは4年前。

「妻は4歳年上だったので、生きていたら今の私と同じ年だと思い、いまだに思い出して涙が出てきます。亡くなる直前は、毎晩のように晩酌していたこともあり、時間が経つほど悲しみが募ってくる。大学時代の悪友も2年前に妻を亡くし、『シニア婚活パーティに行ってみないか』と誘われるけれど、全くそんな気になれない」

康夫さんの妻の死因は交通事故だった。

「予想外すぎて、わからないんですよ。ある日突然、いなくなっちゃう。冗談みたいですよ。死んじゃった、っていつまでもわからないんです。今だってどこかに生きている気がする。今も冷蔵庫には、妻が作ったレーズンクッキーがタッパーに入れて、そのまま置いてあるんです」

奥様はどのような人生を歩まれてきたのだろうか。

「妻は都心近郊で生まれ育ち、名門私立高校から、女子大に進学しました。結婚するまでは、テレビ関係の仕事をしていて、彼女が33歳、僕が29歳の時に結婚しました。出会いは銀座のスナック。妻を含む女性3人がグループで飲んでいて、向こうから声をかけてきたのです。こちらは男2人で会社の同期と飲んでいて、積もる話もあったのに向こうは強引に一緒に飲んできた。『変なお姉さんに絡まれちゃったな』と思い、しぶしぶ飲んだのですが、それが僕の人生を変える出会いだったんです」

康夫さんはハンサムだ。名のある企業に60歳まで勤務しており、さぞや女性からモテたであろう。美男美女夫婦だったのかと想像し、奥様の写真を拝見すると、庶民的でふくよかで、瞳の力が強い女性が微笑んでいた。

「声をかけてきたのは、妻ではなく、彼女の仕事の先輩。この先輩は信楽焼の狸にそっくりな容姿とアクが強い性格なんですが、ホントに楽しい人なんです。妻をかわいがってくれて、私たちの結婚式でもスピーチし、息子が生まれた時も駆けつけてくれた。妻が亡くなるまで『康夫君、あなた、私のおかげで幸せになったのよ!』って大きな声で恩を着せてきた。今でもよくお線香を上げに来てくれるのですが、『私がいたから、こんなに悲しい思いをさせてしまった』と言う。それに対して、『いやいや、ホントに私は幸せですよ』と答えるのが“お約束”のやり取りになっています」

妻に魅力を感じたのは、結婚願望がなかったから。次ページに続きます

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