環境省も推奨する新時代の“温泉保養術”
案内人 北出恭子さん(温泉家)
古来、日本人は病気からの回復や、蓄積した疲労を癒す目的で湯治を行なってきた。湯治は本来、温泉地に少なくとも1週間以上滞在するものだが、現代の生活様式ではなかなか難しい。しかし温泉を楽しみながら健康増進を図るという“現代版の湯治”を打ち出す温泉地が増え、2泊3日や1泊2日の滞在でも、一定の効果や効能が認められつつある。環境省もこれらを「新・湯治」と銘打ち、温泉入浴に加えて周辺の自然や歴史・文化、食という魅力を活性化する取り組みを推奨している。
現代版の湯治を提唱する宿のひとつに星野リゾートの温泉旅館「界」がある。「界」は全国に18施設あり「王道なのに、あたらしい。」をテーマに様々な新サービスを提供。独自の「うるはし現代湯治」もそのひとつだ。そこで、国内外の温泉事情に明るい温泉家の北出恭子さんと、『界 箱根』で“現代版の湯治”を体験してみた。
チェックイン後、さっそく大浴場へ。須雲川の清流を眼下にする清々しい半露天風呂では、思い切り四肢を伸ばして寛ぐ。
「目の前に広がる山の樹々や空を飛ぶ鳥、手が届きそうなほど近くに川のせせらぎを感じながら入る温泉は、まるで大自然の中の野天風呂に入っているかのようですね」と、北出さんも日常を離れた解放感を満喫する。
文明開化を連想させる鍋
夕食は特別会席「明治の牛鍋」である。先付や八寸、お造りなどと続き、避暑地として欧米人に親しまれた明治の箱根を連想させる牛鍋が登場。当時は肉の冷蔵保存が難しく、肉のぶつ切りを使用したことに因み、豪快な厚切り肉を、味噌仕立てで供している。
夕食後は温泉の知識と呼吸法を知る「温泉いろは」に参加。丹田(へそから指3本下)を意識し、4拍鼻から息を吸い、8拍細く息を吐き出す呼吸法は入浴中の呼吸法としても大いに活用したい。
特製の生姜湯やオリジナル体操で心身のリラックス効果を高める
客室は箱根の伝統工芸、寄木細工を設えた和洋室や、露天風呂付きの洋室などがある。モダンで色彩が豊かな寄木細工を手に取れば、その美しさを身近に感じることができる。さらに館内のトラベルライブラリーでは毎晩、寄木細工の魅力を紙芝居で紹介するイベント「寄木CHAYA」を開催している。
部屋で寛ぎ、就寝前には黒酢や黒糖入りの特製生姜湯を。生姜の成分が安眠へ導いてくれる。
朝のストレッチで爽快に
翌朝、わらじを履いて箱根越えをした先人に倣い、「わらじ体操」を体験。体が目覚め、朝の入浴の準備も整う。大浴場へ向かう途中には、温泉のメカニズムや温泉分析書の見方などを解説する温泉ギャラリーがあり、正しい温泉の知識も得られる。
「ここの包み込まれるようなやさしい肌触りの湯は、塩化物泉という泉質から保温力が高く、体の芯からよく温まります。湯上がりもポカポカ感が持続しますね」と、北出さんも朝の湯浴みを楽しんだ。
江戸時代、箱根湯本温泉は東海道を往還する旅人が「一夜湯治」という形で宿泊が認められた。なるほど現代版の一夜湯治も、創意工夫されたプログラムや温泉の力によって心身が蘇る体験となった。
界 箱根
神奈川県足柄下郡箱根町湯本茶屋230 電話:0570・073・011(界予約センター) 料金:3万1000円~(全32室、チェックイン15時、チェックアウト12時) 泉質:塩化物泉 交通:小田急線箱根湯本駅からタクシーで約7分
※この記事は『サライ』本誌2021年12月号より転載しました。