
認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分になった方を法的に保護・支援する成年後見制度。利用を検討する際に多くの人が気になるのが「費用」の問題です。
「毎月いくらかかるのか」「誰が負担するのか」「払えない場合はどうすればいいのか」といった疑問は、制度利用の大きなハードルになりがちです。
今回は、成年後見人にかかる費用の全体像から、月々の報酬相場、負担者のルール、さらには費用が払えない場合の支援制度まで、実務的な視点から解説します。
100歳社会を笑顔で過ごすためのライフプラン、LIFEBOOK(R)を提唱する独立系ファイナンシャルプランナー藤原未来がわかりやすく解説します。
成年後見人にかかる費用とは? 基本の仕組みを理解する
成年後見制度を利用する際にかかる費用は、大きく分けて「申立時の初期費用」と「継続的に発生する後見人への報酬」の2つがあります。初期費用は家庭裁判所に後見開始を申し立てる際に必要な手続き費用です。一方、後見人への報酬は制度利用中ずっと継続的に発生するため、長期的な資金計画が重要になります。
なぜ費用が発生するのか|後見人の報酬のしくみ
成年後見人は、本人に代わって財産管理や契約行為、身上監護などの重要な業務を担います。預貯金の管理、不動産の処分、介護施設との契約など、その業務は多岐にわたり、高度な専門知識と責任が求められます。特に弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職が後見人に選任された場合、その専門性と業務負担に対する対価として報酬が発生します。
家庭裁判所は、本人の財産額や後見人の業務内容を考慮して報酬額を決定します。親族が後見人になる場合は無報酬で務めるケースも多いですが、財産管理が複雑な場合には相応の報酬が認められることもあります。
家庭裁判所への申立にかかる費用の内訳
家庭裁判所に成年後見開始の申立を行なう際には、申立手数料として収入印紙800円、登記手数料として収入印紙2,600円、連絡用の郵便切手が3,000円から5,000円程度かかります。
さらに、本人の判断能力を医学的に証明するための鑑定費用が5万円から10万円程度必要になる場合があります。鑑定を家庭裁判所が命じた場合は、申立人が一時的に納付する必要があることが多いですが、最終的な費用負担については審判で決められます。加えて、申立書類の作成を弁護士や司法書士に依頼する場合は、別途10万円から30万円程度の報酬が発生します。
<図表1>家庭裁判所への申立にかかる費用

毎月の費用はどのくらい? 費用の目安と継続負担
成年後見制度における最大の費用負担は、継続的に発生する後見人への報酬です。この報酬は月額で発生するものではなく、通常は年に1回、家庭裁判所に報酬付与の申立を行ない、裁判所が決定した額が支払われます。
月額に換算した場合の報酬の相場は? 家庭裁判所が決める基準とは
家庭裁判所は報酬を年額で決定しますが、算定の目安として「月額換算」で示されることが多く、東京家庭裁判所の運用例では、管理財産額に応じて月額2万~6万円程度が基準とされています。
東京家庭裁判所の基準を例にとると、管理財産が1,000万円以下の場合は月額2万円、1,000万円超5,000万円以下の場合は月額3万円から4万円、5,000万円を超える場合は月額5万円から6万円が目安とされています。
年額にすると、24万円~72万円程度の報酬が発生する計算です。ただし、不動産の売却や遺産分割協議への参加など特別な業務が発生した場合には、付加報酬として数十万円が加算されることもあります。親族後見人の場合は無報酬の場合が多くみられますが、報酬を決める場合には月額1万円から2万円程度が相場となっています。

「いつまで払う?」への答えと途中での見直しの可能性
成年後見人への報酬支払いは、後見が開始されてから終了するまで継続します。後見終了の時期は、本人が亡くなった時、判断能力が回復した時などです。
認知症などの場合、多くは本人が亡くなるまで続くため、10年以上の長期にわたることも珍しくありません。報酬額は固定ではなく、本人の財産状況や後見人の業務内容の変化に応じて見直されます。施設入所により財産管理が簡素化された場合や、逆に不動産売却などで業務が複雑化した場合には、報酬額が変更されることがあります。
費用は誰が払うのか? 家族・本人・親族の負担関係
成年後見制度の費用負担について「家族が払わなければならないのか」と心配されるかもしれませんが、実際の負担者は明確に決められています。申立費用と後見人報酬では負担者が異なる場合があるため、それぞれのケースを正しく理解しておくことが重要です。
申立費用と報酬、それぞれの負担者は異なる
家庭裁判所への申立にかかる初期費用は、原則として申立人が負担します。申立人は配偶者や子、兄弟姉妹など四親等内の親族が務めることが多く、その場合は申立を行なった親族が費用を支払います。ただし、申立後に家庭裁判所の審判によって、費用を本人の財産から支出することが認められる場合もあります。
一方、後見人への報酬は、原則として本人の財産から支払われます。これは後見人が本人のために業務を行なっているため、その対価は本人が負担すべきという考え方に基づいています。家族や親族が個人的に負担する法的義務はありません。
成年被後見人本人の財産から支払う場合の注意点
後見人報酬を本人の財産から支払う際には、後見人が勝手に決めることはできず、必ず家庭裁判所に報酬付与の申立を行い、裁判所の審判を得る必要があります。報酬が認められると、後見人は本人の預貯金から報酬額を自身の口座に振り込むことができますが、適切な帳簿記録と家庭裁判所への報告が求められます。
本人の財産が少額で報酬の支払いが困難な場合、裁判所は報酬額を減額したり、報酬請求自体を認めなかったりすることもあります。本人の収入が年金のみで財産が少ない場合には、報酬支払いが本人の生活費を圧迫しないよう、裁判所が慎重に判断します。
「費用が払えない」時の選択肢|支援制度や助成金はある?
成年後見制度は本人の権利を守る重要な制度ですが、費用負担が理由で利用をためらう方も少なくありません。しかし、経済的な理由で制度利用を諦める必要はありません。資力が乏しい人のために、公的な支援制度が複数用意されています。
生活保護受給者が成年後見制度を利用するには
生活保護を受給している方が成年後見制度を利用する場合、申立費用や後見人報酬の全額または一部を公費で負担してもらえる制度があります。生活保護の「生業扶助」の一環として、後見制度利用が認められれば、費用が支給されます。手続きとしては、まず福祉事務所のケースワーカーに相談し、後見制度利用の必要性を説明します。

法テラスや市町村の助成制度を活用する方法
法テラス(日本司法支援センター)では、資力の乏しい方を対象に、申立書類作成費用を立て替える「民事法律扶助制度」を提供しています。収入・資産が一定基準以下であれば、月々5,000円から1万円程度の分割返済で専門家のサポートを受けることができます。
さらに各市町村が実施している「成年後見制度利用支援事業」もあります。この事業では、申立費用や後見人報酬の全額または一部を市町村が助成してくれます。対象者は市町村民税非課税世帯、生活保護受給者に準じる生活状況の方、65歳以上の高齢者や障害者で資力が乏しい方などです。利用を希望する場合は、お住まいの市町村の福祉課や地域包括支援センターに相談しましょう。
費用が「高すぎる」と感じたら? 検討したい代替策
専門職後見人への報酬が年間30万円以上になることもあり、「費用が高すぎる」と感じる人は少なくありません。しかし、状況によっては費用を抑える方法や、成年後見制度以外の選択肢も存在します。
家族が後見人になる場合のメリットと報酬相場
親族が後見人に選任されれば、報酬を請求しないという選択ができるため、費用負担をゼロにすることも可能です。実際、親族後見人の約半数は無報酬で業務を行なっています。親族後見人になるメリットは費用面だけでなく、本人をよく知る家族が直接関わることで、きめ細かな身上監護ができる点にもあります。
ただし、親族後見人が選任されるには、財産管理能力があること、本人や他の親族との利害対立がないこと、適切に後見業務を遂行できることなどが求められます。親族後見人でも報酬請求は可能で、その場合の相場は月額1万円から2万円程度です。
任意後見制度や家族信託との違いと選び方
判断能力が低下する前に対策を講じられる場合は、法定後見以外の選択肢も検討する価値があります。任意後見制度は、本人が元気なうちに信頼できる人を後見人候補者として選び、判断能力が低下した際の財産管理や身上監護の内容を契約で定めておく制度です。報酬額も事前に決めておけるため、予算管理がしやすいというメリットがあります。
家族信託は、財産管理に特化した制度で、本人が信頼できる家族に財産の管理・処分権限を託す方法です。後見制度と異なり家庭裁判所の関与がないため、柔軟な財産管理が可能で、継続的な報酬も発生しません。判断能力が既に低下している場合は法定後見制度しか選択できませんが、まだ元気な段階であれば、これらの制度を検討することをおすすめします。
まとめ
成年後見人の費用は、申立時の初期費用と継続的な後見人報酬の2つに大別されます。費用は原則として本人の財産から支払われ、家族に法的な負担義務はありません。
本人に資力がない場合には、生活保護の扶助や市町村の助成制度、法テラスの支援を活用することで、費用負担を軽減できます。また、親族後見人の選任や任意後見制度、家族信託など他の制度を検討することも選択肢の一つです。成年後見制度は、判断能力が不十分な方の権利と財産を守る重要な仕組みです。費用面での不安から利用をためらうのではなく、利用可能な支援制度を積極的に活用し、安心して制度を利用できる環境を整えましょう。
さまざまな金融商品が出回っている世の中だけに、あなたの味方になって守ってくれる相談相手を持つことが必要な時代になっています。ご自身のライフプランを考える時には、生命保険や金融商品の販売をせずに中立的な立場からコンサルティングに徹する独立系のファイナンシャルプランナーへの相談をお勧めします。
●構成・編集/京都メディアライン(HP:https://kyotomedialine.com FB:https://www.facebook.com/kyotomedialine/)
●取材協力/藤原未来(ふじわらみき)

株式会社SMILELIFE project 代表取締役、1級ファイナンシャルプランニング技能士。2017年9月株式会社SMILELIFE projectを設立。100歳社会の到来を前提とした個人向けトータルライフプランニングサービス「LIFEBOOK®サービス」をスタート。米国モデルをベースとした最先端のFPノウハウとアドバイザートレーニングプログラムを用い、金融・保険商品を販売しないコンサルティングフィーに特化した独立フランチャイズアドバイザー制度を確立することにより、「日本人の新しい働き方、新しい生き方」をプロデュースすることを事業の目的とする。
株式会社SMILELIFE project(https://www.smilelife-project.com)











