取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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埼玉県越谷市に住む村松里美さん(仮名・75歳)は、先月、娘の嫁ぎ先から300万円の慰謝料を請求されたという。
幸せな生活をしていると思っていた
「ホントに寝耳に水だったんです」という里美さん。なぜ、娘はお金を請求されてしまったのだろうか。
「浮気したからです。お父さん(夫・75歳)も落胆していました」
娘は典型的な「いい子」だった。特に勉強をしているわけでもないのに、優秀な成績で短大を卒業。地方銀行に勤務した。30歳まで実家に住んでいたが、結婚を機に出て行った。
「旦那さんとは結婚相談所で知り合ったんです。娘は“結婚してのんびり暮らしたい”というのが口癖でした。ウチが共働きで……といっても、私はパートですが、寂しい思いをしたのが嫌だったみたいです。“家にいつもお母さんがいて、家族のことをやってくれる家庭を作りたい”と言っていたんです」
しかし、専業主婦願望がある女性を妻に迎えたいと願う男性は、圧倒的に少なかった。
「地方ならいるかもしれませんが、首都圏にそんな男性はほとんどいない。それに娘は内向的ですからね……主人が大手メーカーの工場勤務で転勤を繰り返していて、転校先でいじめにも遭っていましたから。それでも娘は婚活を頑張って、やっとのことで結婚相手をつかまえたんです。5歳年上で私は気に入らなかった。“苦労するかもしれないよ”と言ったのですが、“この人を逃したら、もう結婚できない”と娘は進んでしまった」
母親が娘の結婚相手に「この人とはうまくいかないんじゃないかな」と思った予感はよく当たると感じる。
「旦那さんは誰もが知る大手企業に勤務しているのに、35歳まで結婚しなかっただけあって、どこかちぐはぐな人なんですよ。体が大きくてボーッとしていて、挨拶もしないでズカズカと家に上がってくる。手土産ひとつ持ってこないとかね。あとは、ぞんざいでいつも上から目線。私の父にそっくりで、最初から嫌いだった」
結婚してから、娘はあまり実家に来なくなり、連絡も必要最低限だった。近くに住む息子夫婦に生まれた孫の小学校受験や中学受験に追われるうちに、あっという間に10年が経過。娘は幸せな結婚をしていると確信していたところに、今回の騒ぎが降りかかってきた。
【「お母さんに相談したら、“だから言ったじゃない”って言うでしょ?」と言われた…。次のページに続きます】