関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者は、武田倫子さん(仮名・72歳)。元地方公務員で、グレイヘアーと白い歯、つやつやの肌が美しい女性です。趣味は登山で、国内の険しい山の登頂に成功しているそう。現在はアパート経営をしており、都内一等地で豊かな生活を送っています。相談は同居する孫娘(20歳)について。
できない子ほど、かわいい
倫子さんは「どうにもこうにも、困りまして……あなたは調査だけでなく、その後のことまで面倒見てくださると伺って、藁にもすがる思いで参りました」と私たちのカウンセリングルームにいらっしゃいました。
私たちに相談くださったのは、このコラム連載を読んだからとおっしゃっていました。
「探偵さんの仕事って、浮気調査と行方不明のペット探しだと思っていましたが、家族の問題もあるんですね。当時は他人事だと思っていましたが、今は本当に苦しいのです。こんな恥ずかしいこと、誰にも相談できず、こちらに来たのです」
倫子さんは72歳と伺いましたが、登山とヨガと日舞で引き締まった体と、プリーツが特徴的なモード系のワンピースを着ており、60代前半に見えます。
倫子さんは、「どうしよう」「なんというか、本当にお恥ずかしくて」「身内の恥を他人様に話してもいいものか」とおっしゃいます。家族の問題は、なかなか切り出しにくいもの。私は話しやすい雰囲気を作りつつ、倫子さんが話し出すのを待ちました。
「私には息子が2人いまして、長男(47歳)の長女……まあ初孫の件で疑わしいことだらけで、その相談なのです」
倫子さんは、共働き夫婦だったこともあり、当時にしては珍しく、放任で2人の息子を育てたのだそう。
「亡くなった夫が優秀だったので、長男は難関国立大学に合格して、大手電機メーカーに就職。そこで今のお嫁さんと結婚し、一男一女をもうけたところまではよかったのです」
長男は、娘に期待をかけた。しかし、娘は全くと言っていいほど勉強ができない。
「小学校受験を全落ちし、中学受験も全落ち。高校で“かろうじてお嬢様校”に合格したものの、進級できずに退学。都立高校に編入し、今は短大に通っています。できない子ほどかわいいというけれど、私はこの子が好きなんです。今でも、あの子が4歳くらいの時に一緒にベニスに旅行した思い出がよみがえります」
【最愛の孫娘と同居している理由。次ページに続きます】