関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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今回の依頼者は、壮一・祐美子夫妻(仮名・ともに70歳)。ふたりともいかにもビジネスパーソンといった雰囲気で、東海地方で大きな会社を経営しています。
「息子とこの3か月間、連絡が取れない」と私たちのところに連絡があり、カウンセリングルームでお会いしました。
息子さんは、現在34歳。東京の外資系銀行で働いているとのことでした。
「息子には私たちの跡を継がせるために、幼いころから英才教育をしてきました。私たちの地元では、満足な教育が受けられないと思い、中学校から中高一貫の名門高校に入れて、寮生活をさせていたのです」と壮一さん。
その中高一貫の名門男子校は、私でもその名を知る学校でした。
この世代のご夫妻関係は、自然に男尊女卑なコミュニケーションをとることがあるのですが、お二人はとてもフラット。祐美子さんは日本を代表する企業の親戚筋で、幼いころからアメリカで暮らし、三か国語が堪能。旧帝国大学系の国立大学を卒業し、国際関連の専門職として活躍。現在はSDGs に関わる仕事をしています。
私の仕事は依頼の時にあからさまに「探偵なんかに」とか「ホントは関わり合いたくなかった」というような圧をかけられることが多いのですが、おふたりはとてもフラット。心の内まで正直に、しっかり話してくださいました。
「私たちの息子は、幼いころから親の言うことをしっかり聞き、自分の頭で考えて、自分の言葉で話すところがありました。私たちの提案する進路に従って行動し、“いつか会社を継いで、社会全体に貢献する”と、世界のお金の流れを学ぶためにも、厳しいビジネスの世界に入って行きました。ただ、このところ、夫も私も古希を迎え、そろそろ息子にウチの仕事を覚えてもらおうと思って、息子に連絡したら、出てもらえないんです」
【数か月間、息子を探し続けたが……。次ページに続きます】