取材・文/沢木文
親は「普通に育てたつもりなのに」と考えていても、子どもは「親のせいで不幸になった」ととらえる親子が増えている。本連載では、ロストジェネレーション世代(1970代~80年代前半生まれ)のロスジェネの子どもがいる親、もしくは当事者に話を伺い、 “8050問題” へつながる家族の貧困と親子問題の根幹を探っていく。
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2浪してから、30年間、息子は引きこもり
千葉県浦安市に住む山田里枝さん(仮名・78歳・無職)は、引きこもりの息子(50歳)を年金で養っている。
「去年、主人がなくなって、やっとひとつの仕事を終え、好きなことをやろうと思ったんですよ。その時に“まだうちには問題があったんだ……”と絶望的な気持ちになったんです」
その原因は、30年間引きこもりを続けている息子のことだ。なぜ、引きこもりをするようになったのか。
「大学受験に失敗したんです。主人は国立大学以外認めない人で、“絶対に国公立大学じゃないとダメだ!”と言い、2浪させたんですよ。でも、息子は主人が望むような大学に合格しなかった。それで仕事をすることになったんですけれど、中学校までスポーツ万能で、生徒会などもやっていた子が、高卒で働くのは厳しいでしょ。主人も“甘ったれたやつは苦労して根性を叩きなおせ”と言っていたんですけどね」
里枝さんの夫は、山陰地方の貧乏な家庭から、県一番の進学高校に進み、関東圏内の国立大学に進学。官僚となり定年まで勤めあげた人物だ。曲がったことが大嫌いで、政治家からも信頼されていたという。
「立派な人でしたよ。絶対に自分が正しくて、そのほかは認めない。家でもきちっとしていて、“お前たちは俺に黙ってついてくればいい”と言っていた。家計に厳しくて、私が奥様連中と喫茶店でお茶を飲んだときは、バーンと手が飛んだ。“俺が稼いだ金をそんなことに使うな”ってよく怒られていました。今の人はいいですよね。そういうのってDVって言うんでしょ? あの頃は当たり前だったから」
結婚は両親が設定した見合いで、里枝さんが23歳、夫が27歳だった。
「私は短大卒でタイピストとして働いていたんだけど、結婚を機に家庭に入ることにした。それが当たり前だったのよね。主人は“固い人で間違いない”と言われたので、ああそうかと。当時は今と違い、家を借りるにも信用第一で、公務員じゃないとアパートを貸さないって言う大家もいた。今の若い人が大変だという話を聞くけど、あの頃(1970年代前半)の方が大変だったと思う」
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