鉄拳制裁を下すエリート夫
厳格で優秀な苦労人と、優柔不断な家庭の人……これまで多くの困難を抱える家族関係を見てきたが、この組み合わせを両親に持つカップルは多い。
「時代のせいなんですよ。私が働こうとすると“俺に恥をかかせる気か”ってバーンって手が飛んでくる。いつもそう。私もされていたけど、あの子に対しては、もっとすごかった。自分が苦労しているから、私に甘やかされて育っている息子に対して、危機意識があったみたいですよね。息子が幼稚園の時に、私が作ったお弁当がおいしくないと文句を言ったんです。すると主人が“甘ったれるな! 俺は弁当さえもたせてもらえなかった”と叩くんですよ。それで止めに入ると、朝まで私が説教された。あのときに、あの子は変わった。父親の望むようないい子になってくれたんです」
成績優秀で利発、皆が好むアニメや特撮に興味を示さず、江戸川乱歩や伝記小説を読んでいたという。
「勉強も運動もできる。文武両道の子になったので、高校受験までの10年間くらいが本当に幸せでした。“オタクはいいですね”とうらやましがられていました。高校も県立トップクラスの学校に進んだんですが、そこからおかしくなった。いつもトップ集団にいたのに、平均点をとるのが精いっぱいになったんです」
独学で国公立大学に入った夫は、塾や予備校に通わせるという選択肢はない。
「他の子は塾に行っているのに、あの子は自分で勉強していた。どんどん順位が下がって、高3は一番成績が悪い集団に入ってしまった。主人に言うと怒られるので、順位を書き換えた成績表のコピーを作って見せていました」
里枝さんも息子も、専制君主の夫に支配されているのではないか。
「まあうるさい人でしたからね。でも言っていることはまともなんですよ。私がバカだからよく叱られていましたけどね」
余談だが、こういう父親がいる家庭の子は、かなりのストレスを抱える。「息子さんが幼いころ、気になった行動はありませんか? 例えば、いじめや破壊など……」と言ったら、「家に帰って来ると、息子がお店のモノを勝手に取ってきていることが多々ありました」と言った。
【「オマエは生きている価値さえない」と父親に言われた……。その2に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。