関係が近いからこそ、実態が見えなくなる家族の問題。親は高齢化し、子や孫は成長して何らかの闇を抱えていく。愛憎が交差する関係だからこそ、核心が見えない。探偵・山村佳子は「ここ数年、肉親を対象とした調査が激増しています」と語る。この連載では、探偵調査でわかった「家族の真実」について、紹介していく。
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幸せな家庭があるはずの息子が突然、実家に帰ってきた
今回の相談者は、会社経営者の佐々木信永さん(仮名・72歳)。社員200人以上の会社を経営されています。奥様を亡くし、とても大変なところ、息子が問題を持ち込んできたと電話で相談がありました。
最初は調査の相談だったのですが、2分もしないうちに信永さんに、「相談は自宅でお願いできませんか?」と申し出があったのです。
「会社では気を使わなければならず、長年、信頼していた女房には先立たれ、今度は息子の問題です。もうどうしていいかわからないのです。申し訳ないのですが、私の自宅に来ていただき、依頼内容を聞いていただけないでしょうか。もちろん相談費用はお支払いします」とおっしゃっていました。
すぐにお伺いするとお返事したら、「30分後にお迎えに上がります」とのこと。すると、指定時間にインターフォンが鳴り、スーツに帽子をかぶった運転手が待機していました。
向かった先は、横浜から30分くらいクルマを走らせたところにある、豪邸が林立する超高級住宅地。電車移動には不便なのですが、高台にある風光明媚なところです。
コンクリートの塀に囲まれた、少々古めの一軒家の前でクルマは停車。大きな門が開き、私とペアの探偵は中に入っていきました。
信永さんは筋肉質で、キレイにゴルフ焼けした「いかにも経営者」という男性です。しかし、気の毒なくらい憔悴している。ひとまず「話せるところだけ、聞かせてください。言いたくないことは言わなくていいですよ」と前置きをして、お話を伺うことにしました。
「問題というのは、息子の事なんです。今、奴は43歳なんですが、1週間前に突然ここ(実家)に帰ってきた。結婚して娘が2人もいるんですよ。しかも、嫁と娘たちは行方不明だという」
息子さんが結婚したのは、10年前。その相手は、10歳年上のバツイチ女性で、当時8歳の連れ子がいた。信永さんはこの結婚に大反対した。しかし、息子は強引に籍を入れてしまった。信永さんの長女(45歳)が間を取り持って、勘当にはならなかったものの、親子関係はぎくしゃくしてしまった。
「それでも幸せならいいと思っていたんですが、結婚10年目にウチに帰ってきた。理由を聞くと“言えない”と言い、部屋に閉じこもってしまった。その翌日、山下さん(家政婦さん)が、“ちょっと来てください!”と言う。見に行くと梁のところに縄をかけている。息子は自死を考えているんです」
【息子は会社に行っているが、体調不良で会議室通勤。次ページに続きます】