相続をするとき、相続税のことを考えると、心が重たくなるものです。いざという時に困らないよう、どれくらいの相続税がかかるのかということを、あらかじめ把握しておけるといいですよね。

そこで、アクティブシニアのライフサポートを行う株式会社ユメコム代表の橋本珠美が、豊富な経験や事例をもとに「相続税の計算方法」についてわかりやすく解説いたします。この記事を通して、「相続税」にまつわる基礎知識を身につけてください。

目次
相続とは?
相続税はいくらかかる?
相続税の計算方法
相続税の計算シミュレーション
まとめ

相続とは?

まずは「相続」に関する基本的な事項を押さえておきましょう。

「相続」とは、被相続人(亡くなった人)の財産を法定相続人(財産をもらう人)へ引き継ぐことです。一口に「遺産」と言っても大きく分けると3つに分類されますので、詳しくご説明していきます。

遺産とは?

相続財産は、「プラスの財産」だけではなく、被相続人が「借金を完済していない」「税金を滞納していた」などのいわゆる「債務」がある場合、「マイナスの財産」も相続しなければなりません。「マイナスの財産」が大きい場合は相続放棄という選択肢もあります。

<プラス財産>
1:本来の相続財産
現金、預貯金、株式、土地など

2:みなし相続財産
生命保険金、死亡退職金など

3:相続開始の3年以内に被相続人から贈与された財産

<マイナス財産>
借入金や未払金など

<非課税財産>
仏壇やお墓など

相続税はいくらからかかる?

それでは、相続税はどれくらいかかるのでしょうか? ご自身で計算できるよう、基礎控除、生命保険の非課税枠についてご説明いたします。

基礎控除

遺産の総額が一定のボーダーラインを超えた場合、相続税がかかります。このボーダーラインのことを、「相続税の基礎控除」といいます。下記が計算式です。

基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

基礎控除内におさまる場合は、相続税はかかりません。

生命保険の非課税枠

生命保険にも非課税枠があります。死亡保険金の非課税枠は1人500 万円。死亡保険金は、家族を亡くした遺族の生活を支えるためのもの。そのため、死亡保険には非課税枠が設けられているのです。下記が計算式となります。

500万円×法定相続人の数=生命保険金等の非課税枠

相続税の計算方法

相続税の計算は、課税遺産総額(遺産の総額−基礎控除額)を各相続人の法定相続分に応じた取得金額に対して税率を乗じます。算出された各人の税額の合算が、相続税の総額となるのです。なお、相続税の計算は、実際の分配とは関係ありません。

その上で、各相続人が実際に遺産をどのような割合で取得したか(取得割合)に応じて、相続税の総額を按分し、相続税が確定します。

ご自身でもできるように、例を挙げながら、計算シミュレーションしてみましょう。

(例)
相続人:妻・子2人 計3人
財産:預貯金5,000万円、自宅不動産1億円 計1億5,000万円
分割方法:遺言書はなく、法定相続割合に応じて分割

【基礎控除額の計算】

基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」で求めます。例の場合は、法定相続人が3人なので基礎控除額は4,800万円となります。

【課税遺産総額の計算】

先述したように、遺産の総額から基礎控除額を差し引いた価格が課税遺産総額です。よって、遺産総額の1億5,000万円から上記で計算した基礎控除額4,800万円を差し引いた、1億200万円が課税遺産総額となります。

【法定相続分に応じた取得金額の計算】

法定相続分は配偶者が1/2、残りの1/2を子2人で均等に分ける為、子はそれぞれ1/4ずつとなります。

よって各人の取得金額はそれぞれ下記のようになります。
配偶者 1億200万円×1/2=5,100万円
子A   1億200万円×1/4=2,550万円
子B   1億200万円×1/4=2,550万円

【相続税の計算】

上記で計算した取得金額に税率を乗じていきます。税率は下記の通りです。

<法定相続分に応じた取得金額・税率・控除額>
1,000万円以下・10%・―
3,000万円以下・15%・50万円
5,000万円以下・20%・200万円
1億円以下・30%・700万円
2億円以下・40%・1,700万円
3億円以下・45%・2,700万円
6億円以下・50%・4,200万円
6億円超・55%・7,200万円

配偶者:5,100万円×30%-700万円=830万円
(配偶者の取得金額は5,100万円なので、表中の「1億円以下」に該当します)

子A・B:2,550万円×15%-50万円=332万5,000円
(子の取得金額は2,550万円なので、表中の「3,000万円以下」に該当します)

よって、830万円+332万5千円×2=1,495万円が相続税の総額となります。

【各相続人の納付額の計算】

最後に、上記で計算した相続税の総額を相続人毎の取得割合で按分すれば相続税の納付額が確定します。

今回は法定相続分に応じた分割となるため、

妻:1,495万円×1/2(法定相続分)=747万5,000円
子A・B:1,495万円×1/4(法定相続分)=373万7,500円

が各相続人の納付額となります。

但し、配偶者については1億6,000万円までは納付が必要なくなる配偶者控除※が適用できるため、実際に納付を行うのは子2人だけとなり、最終的に納める相続税の総額としては373万7,500円の2人分で747万5,000円となります。

※配偶者控除を適用する為には、必ず申告を行う必要があるので、ご注意ください。

相続税の計算シミュレーション

先述した例と財産・分割方法は同じですが、相続人の内訳として配偶者がおらず、長男も既に他界してしまっているパターンについて、解説いたします。

財産に不動産がある場合の計算シミュレーション

相続人:子3人 
そのうち長男は先に他界しており、その子2人(孫)が代襲相続 計4人
財産:預貯金5,000万円、自宅不動産1億円 計1億5,000万円
分割方法:遺言書は無く、法定相続割合に応じて分割

【法定相続分の考え方】

配偶者がいない場合の法定相続分は子3人での均等となり1/3ですが、うち一人が既に他界してしまっている場合は、その子(孫)が「法定相続人の権利」を承継(代襲相続)します。

今回のケースだと長男には子が2人いるため、長男が受け取るはずだった1/3の権利を子(孫)2人が承継し、それぞれ1/6ずつ法定相続します。

【基礎控除額の計算】

相続人は子(孫)2人と代襲相続による孫2人で計4人となるため、3,000万円+600万円×4人で基礎控除額は5,400万円になります。

【課税遺産総額の計算】

1億5,000万円-5,400万円=9,600万円が課税遺産総額となります。

【法定相続分に応じた取得金額の計算】

法定相続分は子2人がそれぞれ1/3。残りの1/3を孫2人で均等に分けるため、孫はそれぞれ1/6ずつとなります。

よって各人の取得金額はそれぞれ下記のようになります。

子A  9,600万円×1/3=3,200万円
子B  9,600万円×1/3=3,200万円
孫A  9,600万円×1/6=1,600万円
孫B  9,600万円×1/6=1,600万円

【相続税の計算】

それでは上記で計算した取得金額に、税率を乗じていきましょう。先程と同じように下記の税率表を参照します。

<法定相続分に応じた取得金額・税率・控除額>
1,000万円以下・10%・―
3,000万円以下・15%・50万円
5,000万円以下・20%・200万円
1億円以下・30%・700万円
2億円以下・40%・1,700万円
3億円以下・45%・2,700万円
6億円以下・50%・4,200万円
6億円超・55%・7,200万円

子A・B:3,200万円×20%-200万円=440万円
(子A・Bの取得金額は3,200万円なので、表中の「5,000万円以下」に該当します)

孫A・B:1,600万円×15%-50万円=190万円
(孫A・Bの取得金額は1,600万円なので、表中の「3,000万円以下」に該当します)

よって440万円×2+190万円×2=1,260万円が相続税の総額となります。

【各相続人の納付額の計算】

上記で計算した相続税の総額を相続人ごとの取得割合で按分し、相続税の納付額を確定します。

今回も法定相続分に応じた分割となるため、

子A・B:1,260万円×1/3(法定相続分)=420万円
孫A・B:1,260万円×1/6(法定相続分)=210万円

が各相続人の納付額となります。

まとめ

「相続税の計算」について解説してきましたが、いかがでしたか? 数字が並ぶため、ややこしく感じたりもいたしますが、手順にのっとって計算すれば、ご自身でも算出することができるものです。「相続税、いくらかかるの?」と悩んだら、この記事を参考にして計算をしてみてくださいね。

●構成・編集/末原美裕(京都メディアライン・http://kyotomedialine.com

●取材協力/橋本 珠美(はしもと たまみ)

2001年4月、株式会社ユメコムを起ち上げ、介護・福祉の法人マーケットを中心に、誰もが高齢社会を安心して過ごすためのコンサルティングを始める。
また「高齢者と高齢者を抱える現役世代」のための相談窓口「シニアサポートデスク」「ワーク&ケアヘルプライン」を運営し、高齢者やそのご家族の幅広いお悩み(介護・相続・すまいなど)にお応えしている。
相談窓口の事例と自身の経験(ダブルケア)を取り入れたセミナー活動は好評を得ている。

株式会社ユメコム(https://www.yumecom.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。
個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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