文/満尾正
新型コロナウイルス感染症など、さまざまな病気に負けないための「免疫力」は、日々の食事や生活習慣の改善によって、大幅に高めることができるそうです。しかし、巷に溢れる健康や免疫力に関する知識は刻一刻とアップデートされ、間違った情報や古びてしまったものも少なくありません。コロナ禍の今、本当に現代人が知っておくべき知識とは何でしょうか。著書『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ究極の「健康資産」の作り方』が話題の満尾正医師が解説します。
免疫力は食事によって高められる
もともと私たちの体には、外から入ってきた異物や病原微生物や体内で発生したがん細胞などを排除する自己防衛システム(=免疫システム)が構築されています。そのシステムを、正しく働かせる力のことを免疫力と呼ぶのだと言っていいでしょう。
この「正しく働かせる」というところが大事で、免疫システムはがむしゃらに働けばいいのではありません。暴走させては大変なことになります。
新型コロナで命を落とした人の多くが、「サイトカインストーム」という免疫暴走を起こしていたということがわかっています。
サイトカインは、体に異常が起きると、それを知らせるために細胞から血液中に出てくるタンパク質です。本来なら、サイトカインによって私たちの体は危機から守られます。
ところが、あまりにも多量に出てくれば、血管の壁を傷つけて血液の塊を形成し、それが剥がれ落ちて血栓となり、肺や心臓、脳などの血管を詰まらせてしまうのです。
当初、新型コロナは肺炎を起こすウイルスと思われていましたが、検証が進むにつれて、全身どこでもやられてしまう血管病という認識が強くなっていきました。
ですから、これからの時代を健康に生き抜くために最も重要なのは、誰もが生まれつき備えている「免疫システム」を正しく働かせることに尽きます。
新型コロナへの対策としても、手洗いや換気、ソーシャルディスタンスの励行に加え、免疫力を高めるためのアドバイスがあちこちでなされました。
「バランスのいい食事と充分な睡眠をとって、必要以上にストレスを溜めないようにしましょう」
言い尽くされたことですが、真理です。とくに食事は大事で、免疫力を高く保つために、ここを避けては通れません。
ところが、私が食事の重要性について述べると、たいていの人がややうんざりしたような反応を示します。きっと、これまでも健康診断のたびに同じようなことを聞かされており、耳にたこができているのでしょう。
そもそも「バランスよく食べる」という行為は、非常に難しいものです。単純に、好き嫌いなく肉も魚も野菜も食べるというようなことでは、免疫力を最高に保つことはできません。というのも、現代ならではの「食事情」があるからです。
私が子どもの頃は、それこそ「好き嫌いなく肉も魚も野菜も食べる」でOKでした。でも、今はさらなる賢い態度が求められます。単純に「なにを食べるか」だけでなく、「なにを食べないか」についても考えなくてはなりません。
食べるとは、生きるために欠かせない栄養分を体に摂り入れることです。この側面から言えば、少しでも体にいいものを摂ることが大事なのは理解しやすいはずです。
一方で、食べるとは、体にとっては「異物を入れる」行為です。だから、悪いものを排除することもとても大事なのです。
今、多くの食べ物は怪しい加工が施された「工業製品」となり、野菜さえも本来の栄養素を維持していません。
たとえば、現代人がよく口にするカップ麺やスナック菓子、清涼飲料水は、食べ物というより工場でつくられた「物質」です。
便利なカット野菜には添加物が用いられ、露地物をうたっている野菜も、農薬や化学肥料のために大事なミネラルが失われています。
こうした状況にあって、いいつもりでおかしなものを食べていたら、免疫力が高まることはないし、それ以前に健康を害してしまいます。
満尾正(みつお・ただし)/米国先端医療学会理事、医学博士。1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業後、内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療の現場などに従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。米国アンチエイジング学会(A4M)認定医(日本人初)、米国先端医療学会(ACAM)キレーション治療認定医の資格を併せ持つ、唯一の日本人医師。著書に『世界最新の医療データが示す最強の食事術 ハーバードの栄養学に学ぶ「究極の健康資産」の作り方』(小学館)など。