南アルプスの山々に囲まれる山梨県早川町。町の96%が森林におおわれる深山幽谷の地で、2月の大雪の際には孤立状態になってしまったことも記憶に新しいところです。
まさに秘境といえるこの地に湧く温泉が、奈良田温泉です。奈良田温泉には奈良王様にまつわる伝説が残ります。
奈良王様とは女帝として即位した第46代孝謙天皇のことで、奈良田より南の西山温泉で湯治を行い、その後さらなる霊泉を求めて山奥へ分け入りました。そして「奈良の都は七条なるが、この地は七段。ここも真に奈良だ」と驚き、数年遷居されたといいます。古来「奈良田の七不思議」として、奈良王様の伝説が語り継がれています。
奈良田温泉の宿『白根館』の温泉は、透明やグリーン、白濁と刻々と色が変わることから七不思議の湯と名付けられています。泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物泉で、とろとろの肌触り。ランプのともる木造りの露天風呂も味わいがあり、秘湯ムードたっぷりです。
取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。