近年、海外旅行先として人気上昇中のタイ。急発展している首都・バンコクの刺激も魅力ですが、今回はガイドブックにもあまり載っていないタイ西部のサムットソンクラーム県を訪ねます。
川のそばに家を建てるのが好きなタイの人たち。水辺の涼しさを取り入れ暑さをやり過ごしたり、漁をしたり。朝は托鉢で訪れたお坊さんと言葉を交わし、夜になれば家族でホタルを楽しむ。そんな庶民の暮らしを取り入れたリバーサイドホテルに泊まりました。
美しい水辺のホテル「アシタ・エコ・リゾート」へ
マングローブの森や観光農園のココナツ・ファクトリー(記事はこちら)を満喫したあとは、リバーサイドホテル「アシタ・エコ・リゾート」へと向かいます。到着して見てびっくり。池のど真ん中に小島のようにレセプションが浮かんで見えるのです。
各バンガローはレセプションから渡り廊下を通ってさらに奥へ。見た目は普通のバンガローですが、重い木の扉を開けると大きなガラス戸があり、目の前には小さな川が流れています。
どこから部屋でどこから外なのか一瞬、分からなくなるほどの開放感に感動して、ベッドにゴロンと横になったら、小川の反対側に建てられたバンガローから「おーい!」と手を振る男性記者の姿が。さらに、別の記者たちが目の前の小川をボートでエッサ、エッサと漕ぎながら通り過ぎていきます。川沿いの村のように賑やかでいいのですが、着替えたり、鼻をかむときは、忘れずにカーテンをしっかり閉めたほうがよさそうです。
その先には本当の川がありますが、そこには船着場もあり、地元の人たちの船が行き交っています。私もボートを借りてホテル内の小川や池を漕いでみました。本物の川ではありませんが、村人になった気分です。
ボートを降りてブラブラしていると、庭園の東屋の下でタオルを畳んでいるスタッフさんを発見しました。よく見ると、畳んでいるのではなくて、タオルで動物を作っています。タイの高級ホテルでは、タオルで作った象やウサギ、白鳥などがベッドの上で出迎えてくれます。それらを作っている光景を初めて見たのですが、手品のように次々と動物が形作られ、並べられていきます。
じっと見ていたら、「ここに座りなさい、一緒にやってみましょう」と誘われました。象を作るには、顔と胴体で一枚づつタオルを使うそうです。おしぼりなど小さなものでも作れるので、帰国したら飲み屋で作って、みんなを驚かせようと思いました。
ボートに乗ってホタルを見に
夕食に目の前の川で獲れた魚をいただいた後、ホテルが用意してくれた船に乗って近くのホタルを見にいきました。ボートから川沿いの家の様子を眺めれば、おじいさんがハンモックに揺られてタバコをくゆらしていたり、テラスにテーブルを出して食事をしている一家や、魚を獲る網を修理している夫婦などを目にすることができ、タイの飾らない日常生活に触れることができます。
20分くらい乗っていたでしょうか、川岸にチカチカと光る木を発見しました。これがホタルが好む木だそうです。何かいい匂いでもさせているのでしょうか? ホタルの光が水面にも映り、幻想的な風景を見ることができました。地元の人たちも時々、夕涼みがてらボートを漕いで見に訪れるそうです。
お坊さんがやってきた
翌朝、いつまでも寝ていると、「そろそろ托鉢の時間だよー!」と起こされました。托鉢にまわってくるお坊さんへお供えをあげる体験です。てっきり、お坊さんがお椀を持ってホテルの入り口から歩いてやってくるものだと思っていたら、みな、船着場に集まっています。なんと、お坊さんはボートを漕いでやってきたのでした。タイのお坊さんは、三食とも自分たちで食事を作らず、地元の人が用意したものをいただきます。小さなお釜に村の人々がご飯を入れていくのですが、歯磨き粉などの日用品も差し上げることができるそうです。
あっちの家、こっちの家と川べりの家に立ち寄り、テラスからご飯をお釜に入れてもらっています。私たちのホテルにも近づくと、お経を唱えてくれて、たくさんのお供えものを乗せて帰っていきました。
毎日、お供えを用意しないとならないなんて大変だなあと思ったのですが、タイでは、日本よりお坊さんがずっと身近な存在です。こうして毎日、托鉢にまわることで、もしかしたら人々が元気かどうか、悩みはないかと、日々、お坊さんたちは気にかけてくれているのかもしれません。
次回は、ツリートリップアドベンチャーと、かつて第二次世界大戦のキャンプ地があったリゾートホテルをご紹介します。
取材・文/白石あづさ
旅ライター。地域紙の記者を経て、約3年間の世界旅行へ。帰国後フリーに。著書に旅先で遭遇した変なおじさんたちを取り上げた『世界のへんなおじさん』(小学館)。市場好きが高じて築地に引っ越し、うまい魚と酒三昧の日々を送っている。
取材協力/タイ国政府観光庁