地元の人たちが運営する観光農園
農園の船着場に到着すると、待っていた農園の人たちが、ココヤシの葉で作ったかわいいバラの花をひとりひとりに差し出して歓迎してくれました。
ここは、地元の人たちで運営しているバーンリムクローン・ホームスティ・コミュニティによる観光農園で、ココヤシの木を育て、ココナツ・シュガーを作って販売しています。ココナツ・シュガーはミネラルが豊富で、最近、日本でも健康食品といて注目を集めているのだとか。
「ココナツ・シュガーって、ココナツ・ジュースを煮詰めるの? それとも果肉の白い部分を集めるの?」と農園の人に聞くと、「どっちも違うよ。砂糖の原料になるのはココナツの花の蜜だよ!」と意外な答えが返ってきました。
それを切ってポタポタと出てきた蜜を竹筒に集めます。1日2回、30本のココヤシの木で竹筒に60杯取れるそう。大鍋で2杯分のココナツ・シュガーが作れる計算です。
そのままかじれるココナツ・シュガー
それでは、集めた蜜を大鍋でぐつぐつ煮るところを見せてもらいましょう。観光農園の事務所にはパソコンもあるし、スタッフはみんなスマートフォンを持っているので、近代的な作業小屋あがあるのかと思ったら、トタン屋根で覆っただけの野外作業場で、そこに原始的な竈(かまど)がひとつ。
想像との落差に驚かされたのですが、くべているのは薪ではなくココヤシの葉です。よく考えれば、ガスも電気も使わず、しかも不要な葉が燃料になるのですから、とてもエコロジー。花の蜜を大鍋でアクを丁寧にすくいながらグツグツと1時間ほど煮詰めていくと、白い液体がどんどん飴色(あめいろ)に変わっていきます。
ねっとりしてきたら窯から降ろして、長い攪拌器でよく混ぜ、煮詰めた蜜を型の中に落としていきます。スプーンをもらって私もやってみたのですが、素早く蜜を落とさないと固まってしまうのに、ネトネトしていてなかなか落ちていきません。それでも出来たてのココナツ・シュガーは香ばしく、濃厚な味で、食べはじめるとやめられない、止まらない…。手伝うより、ぼりぼり食べていた時間のほうが長かったかもしれません。
ココナツで作れないものはない?
次にココナツを使ったお菓子作りを体験します。ココナツの内側の白い果肉を削り、ココナツで作った餅のまわりにつけていくのですが、実の外側を削るのは慣れていても、内側を削るのはけっこう難しいのです。
餅を丸めている農園のおばさんたちは、私のおぼつかない手音を見て、「あー、この日本人、器用じゃないねえ」と笑いますが、「ほら、早く! 果肉足りないよ!」と催促されるのでガリガリ、ゴリゴリと必死です。ココナツの生菓子は控え目な甘さ。抹茶に合うだろうな~と思ったのですが、渡されたのは生ぬるいココナツ・ジュースでした。
ココナツを手にチュウチュウとストローで吸いながら、次はココヤシの葉を使ったカゴ作りに挑戦です。
農園のお兄さんたちを先生に、一番簡単にできそうなカゴ作りから教えてもらいまいした。幅3センチに切った細いココヤシの葉を11枚使って編んでいきます。
「はい、1、2、3、4、5枚目でこっちに折る!」
見本を見せてくれるお兄さんは、いとも簡単に折っていきますが、こちらとしては手先の仕事といえばキーボードを打つくらいですから、思いもよらず楕円形のカゴが出来あがりました。お兄さんが眉間にシワを寄せながら、あっちをひっぱったり、こっちを曲げたりして、カゴらしくなるよう整えてくれました。ようやく完成したころには、ほかの参加者たちはすでに移動用のバスの中。ココナツが好きな人は、ゆっくり滞在してほしい場所です。
もうひとつの農園へ
一生分のココナツを満喫した後は、近くの村、バン・バング・プラップにあるコミュニティへと向かいました。ここでは、ザボンを育てていて、農園の中を自転車で巡ることができるのだとか。こうした村人が運営する観光農園は、近くにいくつもあるそうです。
出迎えてくれた代表のソムソン・センタワンさんに「いつコミュニティを作ったんですか?」と質問すると、「2320年!」と返答が。
「なぜ未来!?」と驚く私に、ガイドさんが「タイでは仏歴を使っているので、543年を引いて考えて」と教えてくれました。
「昔の農家は本当に貧しくて、作物を作っても取引業者に買い叩かれてしまうんです。そこで、団結してコミュニティを作り、お客さんに直接、売るようになりました。当時は質も悪かったけれど、改良して今はおいしくなりました」とソムソンさん。約40年前に6人で始めたこのコミュニティも今や数千人に増えたそうです。
自転車を借りて、村に点在するココナツ畑やザボンの林を巡った後、木炭づくりの現場などを見せていただきました。
木炭自体は珍しくないのですが、さすが南国です。マンゴーやライチ、パイナップルなどのフルーツも惜しげもなく炭にしてしまいます! インテリアにもなる自然の消臭剤として人気だそうです。
併設のレストランで味わえる地元料理もおいしいので、ランチタイムに訪れるといいかもしれません。
次回は、お坊さんが船で托鉢に訪れる川沿いのリゾートホテルを案内します。
取材・文/白石あづさ
旅ライター。地域紙の記者を経て、約3年間の世界旅行へ。帰国後フリーに。著書に旅先で遭遇した変なおじさんたちを取り上げた『世界のへんなおじさん』(小学館)。市場好きが高じて築地に引っ越し、うまい魚と酒三昧の日々を送っている。
取材協力/タイ国政府観光庁