前回の繰り返しになるが、南極料理の成功の70%は、国内の調達業務にあるといっても過言ではない。いくら腕が良くても、そば粉がなければ蕎麦は打てないし、リンゴがなければアップルパイは作れない。いかに漏れなく用意するかで越冬中の食卓の華やかさが決まるのだ。
娯楽の少ない南極では、食事が隊員にとっての一番の楽しみとなる。美味しい料理を食べれば会話が生まれ、不思議と隊員同士の結束も強まる。
隊員の出身地や好きな料理を調べ、季節毎の催しに因んだ料理もカバー。各種パーティーに使う目玉料理も含めて約2000種、35トンの食糧を調達した。
11月28日、ブリスベン経由でパースに着き、そこからバスに乗り、砕氷船「しらせ」の待っているフリーマントル港へ向かう。南半球なので、初夏を迎えた街並みはサングラスなしでは目が開けられないほどまぶしかった。
翌日、オーストラリアで購入した食料を積み込み、出港まで休みをもらった。思えば7月1日に南極観測隊として採用されここまで、調達作業、積み込み作業、残していく家族への生活基盤作り、お世話になった方々から開いていただいた壮行会などで、ほっとする時間がなかったように思う。最後の文明圏を思いっきり楽しんだ。
12月2日午前10時。2台の曳航船に引っ張られ離岸、いよいよ南極へと出港だ。
港には現地日本人会の方々が見送りに来てくれ、みんな見えなくなるまで国旗を振ってくれた。陸地が見えなくなると皆一応に無言となり、様々な決意をした顔に替わる。後戻りはできないのだ。いよいよ南極への航海が始まった。(南極紀行2に続く)
文・写真提供/青堀 力
イタリア料理、フランス料理店で修業後、
※今年2017年は日本の南極観測60周年にあたります。
国立極地研究所公式サイト: http://www.nipr.ac.jp/