取材・文/沢木文
仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。
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自他ともに認める「家族第一」の男だったが……
今回、お話を伺ったのは史郎さん(仮名・65歳)。都内の下町エリア・深川で生まれ育ち、転勤族だった父とともに、日本国内を転々として育つ。大学は東京都内の理科系の大学に進学し、微生物の研究に明け暮れる。卒業後は化学メーカーに就職。開発と営業の仕事のプロフェッショナルとして、定年まで過ごす。
「60歳で定年退職してからも、会社から仕事の相談が来るし、日本酒の蔵元の同級生から“来てくれないか”とオファーが来たりして、忙しいよ」
明るく快活な雰囲気と、人懐っこい笑顔。身長は165cm程度で、お腹が少し出ている。白髪交じりのふさふさの髪は短く刈っている。白いシャツはアメリカのアイビーリーグのブランドのもので、デニムがよく似合う。足元のコインローファーはピカピカに磨かれている。
「これは自分で磨いたんだ。僕はアパレルブランドの『VAN』に憧れて育った世代だから、こういう服が好きなんだよね。気持ちよく着られて、普段着なのに、ドレスコードもある程度はクリアできる。こんなファッションってあまりないよね」
史郎さんの家族は、2歳年下の妻と、32歳の息子と、30歳の娘。子供たちはいずれも未婚で、なかなか家から出ていかないという。
「今はやりの子供部屋おじさん・おばさんにならなきゃいいと思うけれど、彼らは僕たち世代とは異なり、給料が少ない。2人とも大学を出て、上場企業で働いているんだけれど、手取り給料を聞いたら、自分で家賃を払うには、かなり生活水準を落とさなくてはいけない。それなら、家にいればいいというのが、妻の意見。僕は、妻の実家である都内に家を建てていただいた立場だから、反対はできない(笑)。それに、息子と娘は、僕たちの世代とは異なり、親が好きみたいなんだよね。女房と娘は一緒に旅行に行くし、僕も息子と飲みに行ったり、テニスに行ったり。まあ、楽しいよね」
【専業主婦をしている妻とは雰囲気が違う。次ページに続きます】