ミスをするのは、人間である以上当たり前のことである。それが部下だった場合、上司としては「ミスを少なくするように部下を育てよう」と思うだろう。だが、それは誤った考え方かもしれない。リーダーシップとマネジメントに悩む、マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研」から、部下の新しい教育方法を学ぼう。
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“育てる上司”が嫌われる時代の、合理的”教育”方法
新卒で就職した大企業時代。上司は頑張って、私を育ててくれようとする印象がありました。でも、すごく苦手でした。会社の売上はいまいちでした。
転職先のコンサル会社時代。上司は頑張らず、私に成果を出させようとする印象がありました。でも、すごく好きでした。会社の売上もでていました。
部下をお持ちの方は「きちんと育てたい」とお考えだと思います。
しかし、実は「頑張って育てようとする」ことで、部下に嫌われていっているかもしれません。
【事例】
私の中で上司の好き嫌いに大きく影響があったのが「ミスをしたときの対応」でした。
大企業の上司は、私を育てることを重視しミスを叱ります。
コンサルティング会社の上司は、成果を出すことを重視しミスを叱りません。
どういうことか、もう少し詳しくご説明していきますね。
事例1:自分を育てることを重視した、苦手な大企業の上司
大企業に勤めていた時の上司は、とにかく「叱る」のです。
とはいえ、理不尽に「キレる」というわけではありません。
例えば私がエクセルの細かい計算ミスをした場合は
・どうしてそうなったのか。
・どういう反省をしているのか。
・今後どう行動をするのか。
といったところを、厳しくも一緒に考えてくれるタイプの上司でした。
しかし恥ずかしいことに、私の計算ミスはなかなか減りません。
それでもミスをしなくなるよう、能力を上げようとしてくれて、
・きちんとチェックをしよう
・チェックリストを作ろう
と、何度も何度も一緒に対策を検討してくれていました。
しかし、その結果はあまり芳しくありません。ただただ自分の能力のなさに落ち込むばかり。
それどころか、段々と私は上司への不満をいだくようになっていきました。
自分の能力不足を棚に上げて。
「なんでこんなに何度も指摘するんだ。苦手な仕事をやらせるんだ」と。
事例2:成果を出すことを重視した、好きな上司
一方、次のコンサルティング会社の上司は、とにかく「叱る」ことをしません。
ミスがあったときの口癖は「どういう”仕組み”があれば同じ問題は起こらない?」というもの。
例えば、入力漏れのミスがあったときの話です。
大企業の上司のときであれば
・チェックリストを作ろう
・きちんと気をつけよう
という話に落ち着くことが多い内容でした。
一方、コンサルティング会社では
・そもそも必要な項目か
・入力工程を自動化できないか
・入力した内容を自動で正誤判定できないか
という検討が始まります。
この検討の中に「私の行動要素」はありません。あくまで仕組みで解決できないかを検討していました。
そのため、「自分が苦手な仕事」がどんどん減っていきます。
「苦手な仕事を減らしてくれる」という上司はとても頼れる存在でした。
そして、そのコンサルティング会社は非常に少ない人数ながらも、着実に売上を伸ばし続けています。
と、ここまで上司の好き嫌いの話に終始していましたが、ミスを仕組みで解決するメリットは、当然ながら「部下の好感度」だけではありません。
ミスを仕組みで解決する3つのメリット
ミスがあったときに、仕組みで解決するメリット。
部下の安心などの精神面を除いても、大きく分けて3つあります。
・人の資質は変わらないので、本人に同じミスを指摘する時間が減る。
・ノウハウが蓄積されるので、組織として強くなる。
・人間のスキルアップに頼らないので、早く成果がでやすくなる。
人の資質は変わらないので、本人に同じミスを指摘する時間が減る。
「人の資質による」部分が、ある程度大きい仕事。
例えば
・細かいことがミスなくできるか
・大量のタスクが来てもパニックにならないか
など。(もちろんケースによります)
この場合、繰り返し指摘をしてもなかなか改善しないことがあります。
「資質を変えること」はかなり難易度が高いからです。
ただ、そもそも人間の資質に依存しないように「仕組みで解決」する。
そうすれば「指摘する時間」というコストを確実に削減することができます。
さらに言えば、一度起きたミスというのは他の人も起こしうるものです。
仕組み化しておけば、今後のミスの発生を防ぐという効果も見込めます。
本人、その他の人のミスを減らし、指摘するコストを減らすことができるわけです。
人間のスキルアップに頼らないので、早く成果がでやすくなる。
単純ですが、ミスが起こらなければ成果は出やすいです。
そして、うまい仕組みを手早く作ることができれば、ミスの発生をすぐに防げます。
一方、「部下の成長によってミスの発生が減る」ことを目指すと、育つまで当然時間が必要になります。
ここで注意したいのは「育たないことも多い」ということ。
前述の通り、人間は資質的な問題で、なかなか改善できないことがあります。
この点、仕組み化というのは、不確実な人間の成長を待つのではなく、仕組みを使って着実に前進するという考え方です。
※言い換えると「部下の成長」よりも成果を重視する考え方ともいえます。
ノウハウが組織に蓄積されるので、組織全体として強くなる。
個人が工夫してミスを減らしていった場合、それが全社に共有されることは少ないです。ただ、これを全社で共有する仕組みを作れば、個人の経験や創意工夫を組織に蓄積することができます。
仕組み化により、このノウハウの蓄積に成功し、赤字からのV字回復を成し遂げたのが無印良品。
無印良品では、MUJIGRAMという2,000ページにも及ぶ業務マニュアルを作成しています。これは“個人の経験や勘に頼っていた業務を仕組み化し、ノウハウとして蓄積させるため”です。
そして、このMUJIGRAMによる仕組み化の目的は「チームの実行力を高める」ことでした。
マニュアルがきちんと整備されていれば、全てマニュアルに合わせて判断ができる。全体で統一されているので、判断時に責任者は不要。
それは、判断のスピードが上がるだけでなく、「責任者個々人の能力によって、クオリティに差がでない」ということでもあります。
別の意味では「個々人の能力への依存が減る」ので、怪我や退職で主力社員がいなくなっても現場を回し続けられるとも言えます。
さてこのMUJIGRAMですが、導入されたのは赤字38億円という大きな谷底の時期でした。
その根本的な原因が「消費者ニーズへの対応の遅れ」。
当時の無印良品は、一人ひとりの経験に頼りすぎていました。
すると、担当者がいなくなったときには新たな担当者が十分な経験を積むまで時間が必要です。
これでは消費者ニーズの変化に追いつくことができません。
そこで導入されたのが、このMUJIGRAM。
MUJIGRAMによって、ノウハウを蓄積し、個々人への依存を減らし、判断の質とスピードを上げることができました。
その発展とともに、赤字38億円からのV字回復を実現したというわけです。
まとめ:仕組みを作って部下に好かれながら、組織の改善に貢献する
ここまで仕組み化が
・部下の好感を得ること
・コストを下げること
・成果を出すこと
・組織全体として強くなること
に大きく寄与することをお伝えしてきました。
仕組み化を進める方法はたくさんありますが、初めはミスの発生時に「そもそもミスが発生しない仕組みを作れるか」を検討するところから始めてみてはいかがでしょうか?
「仕組みを重視し、育てようとしすぎない教育」こそが、部下との関係を良くしながら、成果を出す方法の一つとして参考になれば幸いです。
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いかがだっただろうか? 「部下を育てる」のも大事なことだが、それ以前に「ミスを少なくする仕組み」を作ることの方が即効力があり効果的であるということがおわかりいただけただろうか。
引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/